第2話 挨拶

 多様性の時代だとしても、あの子が男の子か女の子かはとても大切なことだった。

 何故なら幼かったあの頃の僕にとっては異性である女の子なんて話しかけづらい存在だったからだ。

 学校で休み時間は男子と女子に分かれて遊んでる。

 だから異性に話しかけるなんて恥ずかしいことなんだという暗黙の了解があった。


 ──でも男の子にも見えなくもないから……。


 そこが僕をあの子に話しかけることを諦めさせなかった。どうしてこんなにも話しかけたいのかとかは分からなかったけれど。


・・・・・


 ──やっぱり話しかけてみよう。

 ──ご近所さんだし挨拶をしよう。


 そう心に決めてあの子の家の前へ向かうことにする。

 でも、あの子の家の庭にもしもあの子がいたらあの子に会うことになる。やっぱり恥ずかしい。会いにきたというのに。


 ──何気なく、何気なく。

 ──お出かけのついでみたいに。


 あの子は家の庭にいた。この間みたく花に水をやっていた。

 挨拶を、しよう。声を、かけよう。


 意を決して──。


「こんにちは……!」


 僕は精一杯のつもりであの子に挨拶をした。

 あの子は花に水を遣るのをやめた。それが迷惑だったかなと後悔してしまう。


 だけど、そうしたら、あの子は眩しいくらいの笑顔で「こんにちは」と返してきた。


 それがとても嬉しくて、でも何故だか恥ずかしくて、ドキドキしてしまった。


 だから僕はあの子から逃げるように、いいや単純に逃げ出してしまった。

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