花に水をやるキミ
詩森右京
第1話 初恋
僕の初恋の人。名前も、何も、全然知らない人。
そして性別すらも知らない。
ただ、僕は、キミが花に水をやっている姿がとても好きだった。
・・・・・
小学校の学年が上がった春に、僕は家族の事情で引っ越した。
新しい家は前の家と大差ないアパートの一室。だから特に思うところはそこまで無かった。
個人主義的な地域なので、ご近所さんへの挨拶はなし。強いて言えばアパートの大家さんくらいでおしまいだ。
でも、それが僕にだけどうしても一生続くぐらいに後悔することになる。
・・・・・
ほどほど時間が経って、新しい自宅、新しい学校、新しい生活、何もかもにも慣れてきた頃のこと。
お母さんからのおつかいの帰りに僕は気づく。
僕らの住むアパートの少し近くには一軒家があって、そこの家よりも庭の方に、庭よりも花壇の花に、花よりも花に水をあげてるその家の子が、不思議と目をひくのだった。
声をかけようかと悩んだ。でも、懸命に如雨露で花の世話をしているその子の邪魔をしてはいけないと直感し僕はその場を去った。
・・・・・
その日の夜は眠れなかった。
ベッドの中でモヤモヤとした感覚に襲われて、ずっとあの子のことを考えていた
──あの子は男の子?
──それとも女の子?
思い返してみればあの子の性別がわからない。でもどうして、そんなことを気にするのだろうか。
──男の子だったら友達になれるのかな?
──でも女の子だったら……?
──好き?
そんな訳ないと自分の中で否定する。
名前も知らない。話したこともない。あの子のことなんて何も知らない。
兎にも角にも明日も学校だから、目を閉じたり、違うことを考えようとしたりした。でも眠れやしなかった。
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