第16話 いろいろと絶体絶命

「何? これ……最悪」


 未菜ちゃんからのLINEメッセージに添付されているスクショに、私は震えた。


 ●石橋暴露@hansyayurusumaji 1日

 暴露するぞ。甘神リアラと真剣交際を発表したミュージシャンの音成亮には元々彼女がいて(同棲していた)、売れるために甘神に乗り換えた。

 これまで献身的に尽くしていた彼女を捨てて、有名人に乗り換えた卑劣なヤツ。

 こんな男を推してるやつら目を覚ませ。

 献身的に支えてくれた彼女を簡単に捨てる男だ。

 まだまだ情報はあるけど、今回はこの辺にしとく。

 バ~イ!


 その書き込みには、私がバイトしてる最中の写真が添付されている。一応目元にはモザイクがかけられているが、知り合いが見ればすぐに私だってわかるだろう。


“音成亮の元カノ、地味で笑ったw”

“かわいいじゃん、全然イケる”

“この店俺のバイト先のすぐ近くやw”

“されカノって事?”

“NTRやろ”

“東京文化国際大学の英文科ってとこまで特定しましたー”


 しかし

“亮が酷い男だとして、元カノ晒すのは違うんじゃない?”


 という、優しいお方の書き込みもある。

 そうだそうだ! なんで私が晒されなきゃいけないのよ!

 一般人のプライバシーをなんだと思ってるんだ!


 不安と怒りを燻らせつつ、未菜ちゃんに電話をかけた。


 一回目のコールですぐに繋がり『もしもし伊緒?』と未菜ちゃんの心配そうな声。


「なんなのこれ! どうして私が晒されてるの?」


『掘り下げてみたんだけど、どうやら亮君の昔の投稿に伊緒の部屋で撮った写真があったようなの。それでアパートが特定されて、そこに住んでる伊緒が元カノって事になったみたいね。つけられてたんだと思うよ。この石橋暴露ってやつ、探偵を自称してるし。それでバイトや大学が特定されたっていう流れみたい』


「やだー、どうしよう」


『伊緒のSNSアカウントも特定されるのは時間の問題だから、取り合えず鍵かけて、プロフは非公開に設定し直して。バイトや大学もしばらく休んだ方がいいかもしれない』


「えーそんなー。大学はリモートで行けるとして、バイトは困る! これから年末、クリスマス商戦で、ただでさえ人手不足で忙しくなるし、私だってバイト代ないと生活できない。死活問題だよ」


『その石橋暴露ってやつ。有名人や大企業の代表なんかの秘密を握ってはネットで暴露してる危ないヤツだよ。半グレって噂もある』


「今回は亮がターゲットになったってわけ?」


『そうだね。ネットの世界には本当変なやつがたくさんいてさ、亮君側の勢力もあるわけよ。変な方向に火が付いちゃって、嫉妬や逆恨みの矛先が伊緒に向く可能性だってあるよ』


「どうしよ……」


『サークルに法学部の先輩いるから、聞いてみようか? 法的になんとか抑止できる道があるかも』


「あ! 法学部なら……」


 高塚さんも確か法学部だ。

 しかも天下の東京国立大学!!


「大丈夫! バイト先の先輩に相談してみる」


 と言った所で、電話がかかってきた。

 高塚さんだ!


「噂をすれば。バイト先の先輩から電話来た。未菜ちゃん、教えてくれてありがとうね。また連絡する」


『うん。どうなったかまた教えて』


「わかった」


 と、急いで電話を終了して、高塚さんとの通話を繋げた。


「もしもし!」


『もしもし? SNS、見たよ。大変な事になってるね』


「そうなんです。どうしたらいいですか?」


『今からそっちに行くよ』


「へ?」


『まだ、アパートの近くにいるんだ。自撮り棒持った変なやつらがうろついてて、君の事が心配で、ずっと様子を伺ってた』


「へ? え?」

 と言ってる間に、電話は切れた。


 どうしよう?

 私、風呂上がりでパジャマにノーブラ、ノーメイクなんだけど。


 部屋に来られるのは困るし、嫌だ!


 すぐに電話をかけ直したが、出ない。


「ちょっとー、もう、なんなのよ」


 ぶつぶつ言いながらも、急いで着替えようとベッドから降りた瞬間、テーブルの角に足の小指をしたたかにぶつけて、悶絶。


「いったーーーっ、もう、ヤダヤダ、本当にやだーーー」

 爪の根元からじんわりと血が滲む。


「いったーい」


 ピンポーン。


「えー! もう来ちゃった?」


 足を引きずりながら、どうにか玄関まで歩いた。

 玄関横の鏡で確認したら、姿勢によってはポチっとした乳首の形がわかるけれど、背中を丸めてれば大丈夫っぽい。


 よし!


 ガチャっとチェーンを外して、開錠し扉を開けた。


 瞬間。


 ふわりと体が高塚さんに包み込まれた。


「ふぇ?」

 抵抗する暇もなかった。

 甘ったるい整髪料の匂いが、さっきよりも強く感じる。


「心配したよ。もう大丈夫、僕がずっと君の傍にいるから」


 まるで、少女漫画に出て来るヒーローみたいに、彼は突然、唐突に、私を抱きしめたのだった。



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