第2話

 小学生の時から通っていた塾を辞めずに、高校生になっても、受験生になっても居続けていた。予備校に移るべきかとも思ったか、この塾は先生と生徒の距離が近い。俺はこのアットホーム感が嫌いではないのだ。

 4月も残り半分なある日、ゴールデンウィークを使った塾体験だとかいうチラシを塾長が渡してきた。俺を雑用係に任命するらしい。確かに俺は暇である。この塾、高校生は個別コースしかない。ゴールデンウィーク中は毎日昼に授業が入っていた。基本的に、日程は塾長が組んでいる。もしかしたら手伝わせるつもりで俺の日程を決めたのかもしれない。休みの日は朝早起きするか昼過ぎまで寝るかの2択しかない俺は、仕方なく、朝早く起きて雑用係になることを選んだ。塾長は俺の性格をよくわかっている。

 そんなこんなで始まったゴールデンウィーク。今年は、というか今年も春なんて一瞬でいなくなったから、俺は半袖を着た。塾に着いた途端塾長に笑われる。貴女の気合いが入ったスーツ姿も暑そうでどうかと思います、と言ってみる。初回だからちゃんとした服にするんだとか。大人って大変なんだな。

 午前中は小学生と中学生。小学生は9時から、3教科2時間半。中学生は10時から1教科2時間やるらしい。ガンバレ、未来の後輩候補ども。うちの塾は二階建て。授業は二階でやることが多い。んで、自習室は1階。8時半から塾の外に出て、不安そうな顔をした子供達を塾に招き入れる。気分はまねきねこだ。一階の自習室に入ろうとする子供を、二階へと追いやる。隣の店に入ろうとする子供を塾へ引っ張る。自習室にはプレートが掛かっているし、隣の店も看板はしっかりある。…視野が狭すぎる。

 昼に授業を受けた後、先生たちに混ざってお昼を食べる。午後は高校生の番だ。とは言っても集団授業ではないので、案内は必要ないらしい。午後は自習室にこもるつもりだ。彼女に振られて台風みたいに暴走してる兄が家にいるからね。


 そして、俺は一目惚れをする。

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