第11話

 歩いている間、ラーシュはしきりに話しかけてくれたけれど、ろくに返事をすることができなかった。

 英語が聞き取れなかったせいでもあるし、みじめさに打ちのめされていたせいでもある。

 興奮していた頭が冷えると、さっきの行動が考えなしだったのではないかと思えてきたのだ。


 あの三人が犯人だとラーシュが信じてくれたとして、彼は学校でどう身の潔白けっぱくを証明すればいいのだろう。

 私が証人として発言する? それにどれほど信ぴょう性があるだろうか。


 もし、星のささやきのことをラーシュに話していたら、見張るなりわなを仕掛けるなりして、もっとちゃんとした証拠を手に入れられたかもしれない。けれど私は、彼にばれたくない一心で、そのチャンスをつぶしてしまった。


 どっちにしろ、彼とちゃんと話をしなければならない。

 日本語で話してくれるよう頼むと、ラーシュは怪訝な顔をしながらも、言う通りにしてくれた。


 彼は日本語もうまかった。ちょっと癖のある発音で、ぎこちなくもあるけれど、それでもちゃんと意味が伝わるように言葉を紡ぐ。

 さっきの三人組の話をすると、彼は私の懸念を察して首を横に振った。


「彼らの話、俺も聞いた。だから、先生、説得できる」


 聞けば、あの三人組は素行が悪くて有名らしい。彼らと比べたら、たとえ証拠がなくても、優秀な成績を収めているラーシュの方に軍配が上がる、外人という不利は言葉で打ち負かしてやると、彼は自信ありげに笑った。


「コトハのおかげだ。ありがとう」


 でも、と、ラーシュは続けた。


 ――なぜ、あいつらが犯人だとわかったか。


「あれ、わざと言わせた、と見えた。コトハも知らなかったこと。でも、知っていたから。なぜ?」


(……ああ、ついに来た)


 私はラーシュの顔を見ることができず、目をそらした。


「聞いても、信じないよ。……ありえないことだから」

「ありえない? なにが?」

「……ごめんなさい。私、ラーシュに悪いことしてた……」

「だから、なにを? ――言わないと、わからない。そうだろ?」


 ラーシュは、何かを察してうやむやにするということはしてくれなかった。しつこく問いただし、それでも答えないとわかると、私の顔を両手で包んでぐいっと正面を向かせた。デリカシーのない強引さにカッとなり、抵抗しようとしたけれど、ラーシュの困った表情を見て気が抜けた。


 そうだった。ラーシュが強引になるのは、他人を心配しているときなのだ。

 彼に透明な目で見つめられ――、気が付いた時には、星のささやきのことを洗いざらい話してしまっていた。


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