第9話

 ラーシュに嫌がらせした犯人を見つける。

 そうすることが、勝手に心を読んでいた私のせめてもの罪滅ぼしだと思った。

 それが終わったら、秘密がばれるより先に彼の前から姿を消すのだ。今度こそ。


 そう決心した私は、同じ日の夕方、あの声を聞いたバス停でしばらく待ってみることにした。帰りも同じバス停から帰るだろうと思ったからだけれど、登校時間と違って下校時間は人によってだいぶ違う。ダメもととはいえ、収穫なしという結果にため息をつく。


 コンビニに向かいながら、作戦を練り直す。

 やはり、朝の方が確実だろう。きっと、同じ時間、同じルートで登校してくる。

 気温によっては心の声が聞こえるかもしれないし、その方が犯人も見つけやすいはず。

 とりあえず、明日の朝も同じバス停の前で見張りをすることに決め、コンビニの入口で立ち止まった。


(でも、それで犯人がわかったら、ラーシュとはもう……)


 無意識に、再度ため息をついた。自分で決めたことなのに、いざそれが間近に迫ったら、先延ばしにしたくてたまらなくなる。

 考え事に気を取られていたせいか、私と入れ違いに店を出ていく人と肩がぶつかってしまった。ラーシュと同じ制服を着た三人組の男子生徒だった。


「あ、すみません……」


 とっさに謝ったのだが、彼らは私の存在に気づかず、一塊ひとかたまりになって話に夢中になっている。


「……と、あいつ、ふてぶてしい……。ガイジンってすげえ神経……」

「……次、どうする……、明日……か?」


(……えっ?)


 私ははっとして立ち止まった。

 この声。そして、ガイジンという言葉。

 間違いない。彼らが、ラーシュを泥棒に仕立て上げたのだ。


 でも、どうしたらいいのだろう。


 星のささやきが聞こえるには、まだ気温が高すぎる。気温が十分に下がるまで、彼らが待ってくれるわけもない。

 事実、彼らは店を出てしまった。私は店内で焦り続ける。

 彼らの前に出て、顔だけでも確かめておこうか。でも、その先は?

 何をしているのかと見とがめられたら、うまく言い逃れできるだろうか。


(……私には……、無理だ…)


 私が話したら、きっと誤解されてひどいことになる。心の声が聞こえない今は、下手なことはしない方がいい。

 仕方ないのだ。今の私には何の力もないのだから……。


 何度もそう言い聞かせて、店の奥へ足を踏み出そうとした。けれど、「明日」という彼らの言葉がひっかかり、再度足を止める。

 

 ――明日。


 明日、ラーシュにまた何かするつもりだろうか。正しくあろうとしている彼を泥棒扱いして、さらに彼を傷つけるのだろうか。

 キラキラと朝日を受けて光る髪のように輝いていた笑顔が、今は曇っているというのに……。



 ――気が付くと私は、三人組の一番後ろにいる男子の腕をつかんで叫んでいた。

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