第8話

『――で、今度は俺の鞄からそいつのボールペンが出てきたんだ』


(……え?)


 以前に比べれば音量が小さく、とぎれとぎれになりがちな星のささやきを、必死に聞き取っていた時だった。

 不穏な言葉をキャッチした私は、聞き間違いかと思ってさらに耳をすませる。

 彼はため息をつきながら続けた。


『もちろん身に覚えはない。だけど今回は物証ぶっしょうがあったから、昨日、親まで呼び出されたんだ。そこまで言うなら警察を呼んで徹底的に調べればいいのに、向こうは大事おおごとにしたくない、穏便に済ましてやるからの一点張り。話にならないよ』

「ラーシュ……」

『父さんに、今日は休んでもいいって言われたけど、無実なのにそれもしゃくだしさ』


 ラーシュは力なく微笑んで、早めに学校へ向かった。バスの列に並びながら、足取りの重い彼の背中を見送る。


(大丈夫かな……)


 ラーシュが窃盗なんてするとは思えない。何かトラブルに巻き込まれているのだろう。こういう時は同じ学校でないのが歯がゆくて仕方ない。

 何ができるかわからないけれど、最後に何か、彼の役に立てないだろうか。そうすれば、自分の気持ちに一区切りつけられそうな感じがした。


 ようやくバスが到着し、行列の先頭が車中に吸い込まれていく。その背後を、ラーシュと同じ高校の生徒たちがパラパラと通り過ぎる。

 私も乗り込もうとしたところで、ある声が耳に飛び込んできた。


『なんであいつ、学校来てるんだ……、ペンを忍び込ませるの、結構面倒だったんだぞ』


(――えっ!?)


 同じ年頃の男子のものに聞こえた。可憐な音とともにこぼれ落ちる声。

 慌てて後ろを振り向いたけれど、彼と同じ制服を着た男子生徒はたくさんいて、誰の心の声なのかわからなかった。

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2024年10月31日 18:00
2024年11月1日 18:00
2024年11月2日 18:00

白い息吹とココロの葉 ヨムカモ @yomukamo

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