第7話

 三月を過ぎると、朝の風景もしだいに春の様相ようそうていしてくる。

 日の光が温かみを帯び、積雪が解けてそこかしこに地面が見えるようになった。

 それに比例して、星のささやきが聞こえない日が多くなっていく。


 ……ラーシュと英語でやり取りできるのも、あと少しの間だろう。


 日本の高校に通っているのだから、日本語もある程度しゃべれるのだと思う。だから、この先も彼と話をしたければ、日本語でやり取りすればいいだけだ。

 けれど、私はそうするのが怖かった。意図的ではないにしろ、私は、つたない英語以外に彼の興味を惹けるものを持ち合わせていないからだ。


 それに、急に英語が聞き取れなくなったことを、ラーシュにどう説明する?

 いくら考えても、星のささやきのことを隠したままでその理由を説明する方法が思いつかない。


 下手なことを言って、心を読んでいたことがばれたら――。


 きっと、心底嫌われる。

 嫌われるくらいなら、二度と会わない方がいい。


 そう思ったのに、暖かい朝には「もっと寒くなれ」と願い、寒い朝には迷うことなく公園に足を向けてしまう。

 そうして私は、ぐずぐずと彼に会い続けている。



 ――冬の終わりが近づくにつれ、タイムリミットが着々と迫っているのを感じていた。

 

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