第3話
観光名所として名高い旧議事堂のある公園を通り抜けると、いつもの十字路へショートカットできる。バス停が集まっているそこの交差点で、一か月ほど前から、一人の外国人が目撃されるようになった。
プラチナブロンドのさらさらした髪と、澄んだ湖のような青い瞳。そして、すらりとした
このあたりでは珍しい、北欧系の白人だ。近くの高校の制服をまとった彼は、出没と同時に話題になり、特に女性陣からは熱い視線を浴びることとなった。
しかし、黄色い声にも徹底して無表情・無反応を
私も、例にもれずその一人だ。あんな不愛想な人に話しかける勇気はないし、第一、何語で話せばいいのかわからない。英語なら通じるかもしれないけれど、英検三級すら落ちた私には土台無理な話だった。
そんなわけで私は、高校行きのバスを待っている間の目の保養として、遠くから彼の姿を追っていた。
その彼が、何やらきょろきょろと周りを見渡している。
どうやら何かを探しているようだ。さりげなく近くに寄ってみたけれど、つぶやいている言葉が日本語じゃないのでわからない。
その時だ。彼のものらしき声が聞こえてきた。
『ダーラナホース。どこだ。あの馬、青くて目立つのに……』
可憐な音色を背景にしたそれは、例のごとき星のささやきだろう。言葉ではなく思いが形となっているからなのか、日本語に自動変換されている。
(だーらな、ほうす?)
何のことかわからないけれど、とりあえず、雪の積もった歩道を歩いて、色に的を絞って探してみる。
光を反射してまぶしい地面になんとか目を凝らしていると、いくらもしないうちに、雪に半分埋もれた青色を見つけた。
五センチくらいの大きさの、青い馬をかたどったキーホルダー。彼が必死に探している物はこれだろう。きっと大切なものなのだ。
拾い上げ、届けてあげようとして、はっとした。
(ど、どう話しかける? あの、怖い人に……)
すぐさま、話しかけずに済む方法を検討する。無言で渡して立ち去るのはどうだろう。はたまた、歩道沿いにある石垣の上にでもそっと置いておいたらどうだろうか。
悩みながらチラチラ見ていると、ふいに、彼と目が合った。彼は眉を
その表情は、どう好意的に解釈しても、落とし物を拾ってもらって感謝しているものではない。
(! もしかして、私が
もしそうだったらどうしよう。怒鳴られる前に、誤解を解かなければ。
とっさに自己防衛本能が働いた。目の前に来た彼が口を開く気配を察し、素早く息を吸う。
「If you have something to say, say it clearly!」
「ノー! アイドントテイクユーイット!(いいえ、私はあなたを連れていきません!)」
相手の言葉を
彼がなんて言ったのかは聞き取れなかった。もちろん、心の声を聞いている余裕なんてあるわけがない。
私はタイミングよく到着したバスに飛び乗ると、ただひたすら、さっき口走った英語が間違っていないことを祈り続けた。
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