その45 不吉な予感
一学期終業式も終わり、今日はもう授業がない。
明日から夏休みということにはなっているが、実質的には「今」から夏休みが始まったというわけだ。
夏休みになったとしても、俺の進化は止まらない。
一ヶ月ほどある長期休暇だが、その間にも修練を積み、さらなる高みを目指したいと思っている。魔王セトを圧倒できるほどの
幸い、闘技場や本館の教室は使えるらしい。
グレイソンからも〈闘技場ネオ〉での特訓を頼まれていた。
『俺にはやり残したことがある。まだ夏休みを始めてはならない』
四人にはそう言って、ひとりで学園図書館に赴く俺。
いつ見ても美しい外観だ。
まさに本の楽園。体質的に図書館と合わないクルリンを哀れむ。
授業を受ける必要がない夏休みには、本を読む時間がたっぷりあった。今日はその夏休みで一気読みしたい物語をたくさん借りなくてはならない。
普段は実用的な書物ばかり読んでいるが、せっかくだから娯楽としての物語もじっくり読みたいと思っていた。
毎日図書カウンター当番をしている
図書館に入り、カウンターへ向かう。
だが――。
(……いない? エリザベスが、いない?)
珍しいことに、エリザベスは不在だった。
終業式はもうとっくに終わっているので、いてもおかしくないはずだが……珍しい。
彼女にも他にやりたいことがあるだろうし、これも当然のことなのかもしれない。だが、簡単に受け入れられないほど、引っかかるものがあった。
『どうしました?』
俺に話しかけてきたのは、たまに図書カウンターで見かける女子生徒。
エリザベスと同じ図書委員なんだろう。
声は聞き取りやすく心地いい。
俺を見て、いつもの人か、と納得しているような表情をしていた。
「エリザベスはどうした?」
「如月は……えっと、その……」
エリザベスのことを聞かれ、顔を曇らせる。彼女に何かあったのだろうか。
「言いにくいことでもあるのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
どうやら言いにくいことがあるらしい。
視線をきょろきょろさせ、落ち着きがない様子を見ていればすぐにわかる。わかりやすい女だ。
「そうか、わかった」
だが、俺は無理やり聞き出すようなことはしない。
相手の好奇心をそそるように、さっと身を
彼女にどんな事情があるのかはわからないが、俺に関係のあることでもない。
「――ちょっ、ちょっと待って後輩君!」
「後輩君?」
俺が呼び止められて振り返るのは珍しい。
後輩君と呼ばれたことに対し、顔をしかめる。
「如月を……助けてやって!」
「?」
「うちにはできなかった……だから、後輩君が、
深緑の瞳は俺だけを見ていた。
すがるように、神に願うように、心からの言葉を俺にかける。
流石に無視することはできなかった。
――如月エリザベス。
毎日図書カウンター当番をしている先輩。
俺がいつも見ていたのは彼女の表の面に過ぎない。その裏にどんな苦しみがあろうとも、彼女がそれを隠す限り、俺が気づいてやることはできない。
「話を聞こう」
ここで俺が動いていなければ、如月エリザベスの運命は悲惨なものになっていただろう。
どうやら俺のゆったりとした夏休みはなくなってしまうようだ。
《読書パーティー編の予告》
遂にやってきた夏休み。
しかし、図書委員の
その真相を探るべく、エリザベスと一緒に読書パーティーに参加することになったオスカー。
オスカーはエリザベスを救うことができるのか!?
オスカーの中二病ムーブを見逃すな!
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