その44 次なる刺客☆

「ふざけんじゃねぇ! 魔王殺しあいつがあの西園寺さいおんじオスカーだって言いてぇのか!?」


「奴の実力は認めるが、流石にそれは無理があるだろう!」


 生徒会室に集まった幹部五人。

 その中の男子二人、エイダンとガブリエルが声を張り上げる。


 再び五人は西園寺オスカーの件で集められた。


 そこで生徒会長アリアの口から告げられた衝撃の事実。


『魔王セトを倒した勇者・・の正体は、西園寺オスカーさんです』


 副会長のアレクサンダー、そしてルーナはこの言葉に頷く。


 恐るべき西園寺オスカー。

 だが、この二人の中にあるオスカーへの好奇心はさらに膨れ上がっていた。


「あれは間違いなくオスカー君だね。ボクの言った通り、彼はヤバいよ。魔王以上の・・・実力の持ち主だ」


 アレクサンダーが興奮した様子で椅子から立ち上がり、こまめに跳ねながら感情を表現している。

 人間を超越した戦いバトルに震えたのは、グレイソン達だけではない。


「アリア、ごめんなさいね。ワタシ、結構本気でオスカーのことが気になるみたい」


 ルーナが色っぽい笑みを浮かべる。


 これに大笑いしたのはアレクサンダーだった。


「いやはや、罪な男だなぁ、オスカー君は」


 対して、アリアはというと――。


「ル、ルーナ? そ、それはどういうことでしょうか?」


 明らかに動揺している。

 自分の好きな相手を、セクシー美少女である月城つきしろルーナに狙われるわけにはいかない。ルーナの女性としての魅力を誰よりも知っているアリアは、焦るあまり椅子から転げ落ちた。


 生徒会長らしくない、明らかな失態である。


 これには副会長アレクサンダーも頭を抱えた。


「動揺しすぎだよアリア君。きっといつもの冗談さ。だろ?」


「いいえ、あの言い方は……本気です」


 アリアが断言する。


「あら、流石ね。親友同士、オスカーを取り合いましょうか」


「え! 本気だったの?」


 冗談だと思っていたアレクサンダー。

 抜けたような声を出し、またそれに対して楽しそうに笑う。


「こんな面白いことはないよ! 恋の三角関係……いや、四角関係かな?」


 ちらっとガブリエルに目をやる。

 

 ガブリエルは知的な相貌を歪め、きつくアレクサンダーを睨んだ。


「アレク、変なことを言わないでください」


 副会長のやりすぎた言動。


 アリアは厳しい表情でアレクサンダーを見た。

 彼に反省の様子はなかったが、これ以上何か言うことはない。引き際を知っている。


 だが、アレクサンダーが話さなくなったことにより、生徒会室は沈黙に包まれてしまった。


 学園屈指の実力者が集まる場に、気まずさが広がる。

 その発端は副会長の白竜はくりゅうアレクサンダーだ。この気まずさがまた面白かったのか、吹き出しそうになるのを堪えていた。


 会長アリアがコホンと咳払いし、話し合いが再開される。


「今回わかった通り、オスカーさんには魔王に勝るほどの力があります。確かに危険ですが、やはり敵対することは賢い選択ではないと思いますの」


「そうだね、うんうん、その通り」


「アレク、貴方様はどういう考えですか?」


「いやー、ボクは敵対したいなぁ。面白そうだし、きっと男子二人も賛成してくれると思うよ。前と同様にね」


「本当ですか?」


 半分呆れたように、半分怒ったように。

 副会長アレクサンダーを見るアリア。


 そこに、口を閉じていたエイダンがまた声を上げた。


「俺様は一回西園寺と戦わねぇと納得できねぇ」


 不機嫌そうにエイダンが言う。


 何度も耳にする西園寺オスカーという名前。ガブリエルは座学で彼に敗北した。しかし、実技の実力はまだわからない。

 エイダンは魔王セトを倒した少年がオスカーだとは考えていなかった。馬鹿げているとまで思っている。


 それだけの力があるのなら、どうして学園生活で使わないのか。


 エイダンは常に全力だ。

 日々の授業でも、行事でも、遊びでも。


 自分に出せる全ての力を使い、相手に勝つ。力を抜くなどあり得ない。力を隠すなどもってのほかだ。


「いいね! ボクは応援するよ!」


 再び勢いを取り戻しつつあるアレクサンダーが、エイダンに加勢する。


「ちょうど夏休み明けに勇者祭があるから、そこでオスカー君と対決するといい」


「勇者祭か」


 みなぎってきた、とでも言うように、エイダンが真っ赤な目に闘志を燃やす。

 

 九月の勇者祭。

 この行事には学園の生徒全員が参加し、闘技場で各々の技を競い合う。剣術、神能スキルなど、使えるものは全て使い、文字通り全力でしのぎを削る。


 三学年合同で行われるため、当然ながら経験を積んだ三年生が有利だ。


 しかし、それが厳しい勇者の世界。

 経験不足などという言い訳なんてできないほど、勇者業は過酷なのだ。


 上位十六人で競われる二日目の決勝トーナメントに進出するためには、初日の一次予選と二次予選を通過する必要がある。だいたいの一年生はここで落とされるが、エイダンは一年生であるオスカーと決勝トーナメントで戦おうと考えていた。


 彼にとって決勝トーナメント進出は当然のこと。

 エイダンからすれば、そもそもオスカーが二次予選を突破できるかも怪しい。


「俺様が勇者祭の一位を取る! おめぇらは黙って見てろ!」


「面白いね、きみって奴は。じゃあ、ボクは今年の勇者祭の参加を遠慮しようかな」


「ふざけんじゃねぇぞ! おめぇも俺様がぶっ飛ばす!」


「冗談さ。前回覇者ディフェンディング・チャンピオンのボクが参加しないわけにはいかないからね」


 エイダンはアレクサンダーの実力を認めている。


 一度も彼に勝てたことはない。

 だが、だからこそ、全力のアレクサンダーと戦い、負かす必要があった。


 規格外イレギュラーの白竜アレクサンダーと西園寺さいおんじオスカーに堂々と喧嘩を吹っかける発言をしたエイダン。

 彼らしいその発言に微笑むアリア。そしてルーナ。


 二人はオスカーが魔王を倒せるほどの実力だと知っている。その微笑みは呆れと興味、そして期待。もしかしたら、どこまでも負けず嫌いのエイダンなら、何か起こしてくれるのではないか。


 ガブリエルも今回は彼を罵倒しなかった。

 

 西園寺オスカーという存在は脅威だ。そんな存在に堂々と立ち向かえる度胸は、今のガブリエルにはない。


 そして、アレクサンダーは。


 勇者祭の出場に対して、エイダン以上に燃えていた。


「まったくその通りだね、エイダン君! ボクも遠慮なんてせずに、魔王を倒した・・・・・・オスカー君に勝ちにいくよ」

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