四章 ライトノベルの定義をめぐって
結論として、以下の点を挙げる。
▼文章表現という点においては。ライトノベルと大衆文学・児童文学を区切ることはできない。
この十一作品を用いて行った、ライトノベルと大衆文学における表現方法の比較分析では、先行研究の指摘にある通り、ライトノベルと大衆文学とを区別することはできなかった。
つまり、ライトノベルというジャンルは文体や表現方法など、文字から得ることのできる情報で区別されるものではない為、「読みやすい」という要素を持つ作品がライトノベルであるとする現状の一般的な認識や一部の定義は、正確ではないと言える。
ではどのような尺度でライトノベルというジャンルを分けることができるのかということになるが、それは例えば「特定の出版社・特定のレーベルから刊行されている」や、「口絵、挿し絵がある」、「メディアミックスされている」といった、出版・印刷・販売の形式での分類を行う他ない。また、文章表現という点においては、今回取り上げた『怪盗クイーン』を始めとする児童文学や他の大衆文学作品でもライトノベルであると受けとられることは、半ば仕方のないことなのかもしれない。
ライトノベルというジャンルは、日本の「おたく」文化に属するというその特殊性から「他の文学ジャンルとは違う」というような印象を与えられるが、太田らが「ライトノベル作品群の統計解析」で論じていたように、ライトノベルの特殊性は文章表現に由来するものではないこと。そして、出版・印刷・販売の形式における特殊性であるということがはっきりと分かった。
アンケートの実施自体はおおむね成功したと言えるが、以下の点において大きな問題があった。
▼学術的な統計データと言うにはデータの件数が非常に少ないこと。
サンプルを抽出して行う統計において、その誤差を可能な限り減らす為に多くの回答を集めることが必須である。市場調査データの入力、集計及び分析を行っている株式会社トリムのホームページにある「よくある質問」のページには、許容される誤差が五パーセントの場合、四百件のサンプルが必要とある。今回の調査ではそれを大きく下回る百件程度のサンプルしか得ることができなかった。
▼回答者の層が偏っていて、公正な統計データであるとは言い難いこと。
著者の有する交友関係すべてにGoogleフォームのリンクを送り、それぞれの場所にて更なる拡散をお願いしたが、結果的に同様の趣味を持つ人の割合が非常に多くなってしまい、さらに年齢層として同世代となる二十代と、下の世代となる十代に多くアンケートが行き渡り、著者よりも上の世代となる三十代以上に行き渡りにくくなった。結果として、アンケート全体の年齢構成比のほとんどを「読んだことがある」と答えた件数が全体の九割を超え、二十代以下の回答率が、全体の約85.3%を占めるという偏りを見せることになってしまった。
これが学術目的ではないカジュアルな物であればこれでも問題は無い。しかし、これは論文であり、そこに用いる調査には学術性が求められる。今回は二章にも記した通り、統計的なデータではなく、あくまでも参考としてのデータとしての物であるが、前述した問題は、ひとえに著者の学術的なアンケートに対する理解の不足から生じた物である。それはすなわち、アンケートという調査技法自体について、事前の調査が不足していた点であるから、反省しなければならない。
最後にはなるが、本論を執筆するにあたり、アンケートに協力して頂いたYゼミに限らないR大学の仲間や後輩、高校時代の友人、名前も知らないインターネット上の友人、そして何よりも一番近くで応援してくれた家族に、深く感謝を申し上げる。
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