二章 従来の定義・一般の認識~第二節~

二節 現在の一般の認識


 現在の一般の認識を把握するために、Googleフォームを用いてアンケートを行った。調査は二〇二三年一一月二十四日から同年一二月八日までの二週間で行った。アンケートフォームの共有方法はURLをコピーし、回答数は百十六件(十二月九日十時〇〇分、回答受付終了時点)だった。

 この調査では、以下のような設問を用い、その結果から一般的なライトノベルの認識を確認した。以下に質問と選択肢、回答の件数や結果の概要を記載する。結果を示すにあたり、縦書きでの見やすさを重視するため、質問文に用いている数字は漢数字に直している。回答の件数や割合を示す数字は算用数字を用いた。また、任意回答の問題については、問題番号の下に「※」で表し、回答件数を記載している。


問1

あなたはこれまでに、 一度でも「ライトノベル」と呼ばれる分類に位置する作品を読んだことがありますか?

ただし、この質問においての「ライトノベル」は「あなたがライトノベルだと思う作品」を指します。

はい→105件(90.5%)

いいえ→11件(9.5%)


問2(問1で「はい」と回答した人への質問)


 問2―1

あなたは何歳ですか?

十代(十歳未満を含む)→25件(23.8%)

二十代→65件(61.9%)

三十代→12件(11.4%)

四十代→2件(1.9%)

五十代→1件(1%)

六十代以上→0件


問2―2

どのくらいの頻度で読んでいる/読んでいましたか?


一回だけ読んだことがある→18件(17.1%)

あまり読んでいない/読んでいなかった(月に一~三冊程度)→44件(41.9%)

よく読んでいる/読んでいた(月に四~五冊以上・毎日のように)→43件(41%)


問2―3

初めてライトノベルを読んだのは何歳頃ですか?


小学生(~十二歳頃)→23件(21.9%)

中学生(十三歳~十五歳頃)→70件(66.7%)

高校生(十六歳~十八歳頃)→8件(7.6%)

大学生/社会人(十九歳頃以上)→4件(3.8%)



問2―4

初めて読んだ作品のタイトルは何ですか?覚えていない場合は「覚えていない」とお書きください。略称ではなく、正式なタイトルでお答えください


 提示された作品は特定の一作品に極端に集中するということはなく、数値は分散していた。集中していても「キノの旅」(時雨沢恵一 メディアワークス(現KADOKAWA) 二〇〇〇年~)と「ソードアート・オンライン」(川原礫 メディアワークス(現KADOKAWA) 二〇〇九年~)の七件(表記ゆれ含む)が最大値であった。また、他の媒体からのメディアミックス作品もあった。「機動戦士ガンダム」シリーズの作品をはじめ、ゲームが原作となる「東方Project」(上海アリス幻樂団 一九九六年~)・「モンスターハンター」(カプコン 二〇〇四年~)・「星のカービィ」(ハル研究所(開発) 一九九二年~)シリーズ、VOCALOID楽曲が原作となる『脳漿炸裂ガール』(れるりり(原案) 吉田恵里香 KADOKAWA 二〇一三年~)などが挙げられている。ここで挙げられた中で、最も古い作品は、一九八三年に初版が発行された氷室冴子の『シンデレラ迷宮』(氷室冴子 集英社 一九八三年)であった。



問2―5

ライトノベルは、他の文学(芥川賞作品や直木賞作品、教科書に載っている作品など)と比べた時、読みやすい・わかりやすい文章であると思いますか?


はい→66件(62.9%)

いいえ→8件(7.6%)

あまり変わらない→31件(29.5%)



問2―5―1※

問2―5で「はい」と答えた方にお聞きします。読みやすい・わかりやすいと答えた理由についてお聞かせください。


 この項目の回答数は六十六件であった。「挿し絵がある」、「中学高校生が主役の作品が多く、感情移入しやすい」、「アニメや漫画と同じ内容の展開があるから」などという意見もある中で、最も多く得られた回答は「読みやすい文章(口語的・砕けた口調・比較的易しい単語など)である」だった。



問2―5―2※

問2―5で「いいえ」と答えた方にお聞きします。読みにくい・わかりにくい と答えた理由についてお聞かせください。


 この項目は回答件数が八件と少ないので、全回答を列挙する。


・書き手によるが描写が稚拙。作者の力量の差が大きい


・特殊な読ませ方をする振り仮名、擬音表現や挿し絵を用いた表現等があるため文章のみの表現とは異なり純文学的な物と比較すると慣れが必要な側面がある


・口語体に寄りすぎており、通常の活字で慣れていると違和感がある。表現が陳腐な作品が多い。


・普段は純文学と呼ばれるジャンルを好むので、それと比べてセリフ量やト書きの使い方が全然違うように感じたため。


・主人公の主観が多く、客観的な文章が少ない


・物語の設定が特殊で分かりにくいと感じた


・ラノベ読者や作品のファンなら当然わかるだろうとでも言うように用語が出てくるのが、読み始めたばかりの当時はわかりづらかった。


・一般的な文学(特に賞を受賞した作品などの場合)基本的に日本語として読みやすいのは当たり前ですが、ラノベ作品はそうではないもの、つまり日本語として完全に破綻している部分があるものも多いので全体でみるとラノベ作品のほうが読みにくいといえると思います。



問2―5―3※

問2―5で「あまり変わらない」と答えた方にお聞きします。あまり変わらないと答えた理由についてお聞かせください。


 この項目の回答件数は二十九件だった。「作品・作者による」という意見が比較的ある一方で、「大抵の文学作品にはそれぞれさまざまな読み難いと思わせる要因がある(古い作品なら当時の感覚でしか理解できない表現や言い回し等。ライトノベルならその作品内でしか使われない用語)があるから読みやすさという点に差は無いと考える」という意見があった。


問2―6

どのような作品がライトノベルであると考えますか?文章の読みやすさ以外でお答えください。箇条書きで構いません。


 この項目の回答は、全体として書籍の外面的な情報を基準としていることが分かった。外面的な情報とは、例えば「特定のレーベルから刊行されていること」や「いわゆる文庫本サイズ(A6判)であること」、「挿し絵があること/挿し絵が多いこと」が比較的多く挙げられている。また、「若者(ティーンエイジ)向けである」という意見や若者の中でも「男性をターゲットにしている」という意見もあった。さらに、「出版社や書店がライトノベルとしている作品がライトノベルだ」という回答が


問3(問1で「いいえ」と回答した人への質問)


問3―1

あなたは何歳ですか?

十代→4件(36.4%)

二十代→5件(45.5%)

三十代→1件(9.1%)

四十代→0件

五十代→1件(9.1%)

六十代以上→0件


問3―2

ライトノベルという作品に対し、どのようなイメージを持っていますか?箇条書きで構いません。わからない場合は「わからない」と書いてください。


 この項目の回答数はも、問2―5―2と同様に全回答を列挙する。なお、全く同じ回答があるため、それについては併記する

 

・わからない/分からない

・簡単に読める

・なにが書いてあるかわからない

・他の文学作品と比べて読みやすいが少しチープなイメージ。

・めっちゃ読みにくい漫画と思ってます

・イラストが多いイメージがある。

・子供っぽい



 問2―5の回答群から読み取ることができるのは、口語的な文章は、読みやすさはあるものの、表現の陳腐さと受け取られることがあるということである。また、ライトノベルの設定の特殊さや特殊な読みをする漢字が読みにくいと受け取られることがあることもわかる。また、問3―2の回答も踏まえると、ライトノベルを読んだことが無い人でもイメージとしてライトノベルは「簡単」という認識があることが分かる。

 以上のことを総合すると、一般の認識においてはライトノベルとは、それぞれ様々な認識はあれども、おおむね「若者(特に中学生から高校生)向けであること」、「読みやすい文体・文章で書かれていること」、「挿し絵がある」、「特定のレーベルから刊行されている」であることが分かった。

 なお、サンプルの総数が少なく、統計データとしてはふさわしいものではないが、参考としてこのデータを掲載している。

 

 先行研究をまとめると、主に「対象とする読者が若者、特に中学生から高校生向け」・「読みやすい文体で書かれている」・「巻頭にイラストがあり、挿し絵もある」・「一九九〇年代以降に刊行された」・「特定レーベルから刊行された」作品が、現段階でのライトノベルの定義であると言える。

 現在の一般的な認識をまとめると、「対象とする読者が若者、特に中学生から高校生向け」・「読みやすい文体で書かれている」・「巻頭にイラストがあり、挿し絵もある」作品がライトノベルの定義である。また、「物語よりもキャラクターが主軸に置かれている」作品という定義の仕方もできるということが分かった。なお、本論では、このうち「一九九〇年代以降に刊行された」と「特定レーベルから刊行された」という二つの要素は論旨と離れているので扱わない。また、「対象とする読者が若者、特に中学生から高校生向け」ということは、「読みやすい文体で書かれている」・「巻頭にイラストがあり、挿し絵もある」の二つの項目を逆説的に説明しているため、同じものとして扱う。

 従来の定義と現在の一般的な認識を比較すると、「若者向け」・「読みやすい文体」・「特定レーベルからの刊行」という点においては一致している。対して、「一九九〇年代以降の作品」という従来の定義は、一般的な認識においては一切上がらなかった。これは、従来の定義が研究者の目線によるもので、後者が消費者の視点によるものであると考えられる。研究者であれば、「ライトノベルという物がいつからあるのか」という観点は、古い作品をライトノベルと混同しない為に大切になってくる。対して、消費者はライトノベル的だと感じた作品であればライトノベルだと認識すると東が指摘する通り、ライトノベルかどうかは消費者側の感覚であるから、古い作品(一九九〇年代以前の作品)でもライトノベルだと受け取ることがあると言える。実際に今回行ったアンケートでも一九八三年に刊行された作品が挙げられている。

 「ライトノベル作品群の統計解析」において、太田らが「文章スタイルはライトノベルと一般文芸との差異を示す指標とは言えない」としているが、今回においてはこちらの再検証も兼ねることとする。さらに、本論においてはライトノベルだけでなく、同時期に出版された大衆文学、すなわち一般小説との比較であるため、一般小説にも現れていた特徴を見落とさないようになっている。

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