第12話 南へ

「カデナさん、今日行く討伐依頼はなんて村からのものでしたっけ?」


討伐依頼を出した村へと出発する当日。

今は活動拠点のジテフリアにあるパーティーメンバーみんなで賃貸している物件の女性部屋で着替えをしているところだ。


私は依頼受注とかそういった話にはまったく関わっていないただのこのパーティーにとってはまだ金魚のフン的存在だから、どこの村に行くのかも知らなかった。


まぁ名前を教えてもらったところで、この世界の地理について何も知らない私が分かるわけも無いし、特に気にもしなかったんだけど。

一応名前くらいは覚えておこうと思って質問してみた。


「ここから南に行ったドファという村よ。ハキフ村の先にあるんだけど、最近近くの川で漁をしていた人達がゴブリンのような影を見かけたらしくてね。その正体の捜索と討伐が、今回の依頼ね」


みんなが知ってる当たり前のことでも、カデナさんは嫌な顔ひとつせずにいつも教えてくれる。

彼女は私を買った人あり、いわゆるご主人様なんだけど、私には本当に優しくしてくれている。


すぐに彼女のパーティーになじむことができたのも、彼女が色々と気を使ってくれたおかげだと思っている。

ちょっとしたことでも心配してくれたり、声をかけたりしてくれる様子は、なんだかお母さんみたい。


パーティーの中でも若くて綺麗なカデナさんがなんで責任者というリーダー的ポジションにいるのかと思ったけど、実はジェズさんよりも年上らしい。


実際の年齢を聞いたわけじゃなく、ジェズさんと少し言い争いをしている中で、カデナさんの年齢のことを揶揄して殴られていたのを聞いて、そうなんだと思ったのだ。あんなに綺麗で肌も真っ白ツヤツヤなのに、凄いよねぇ。

なんか特別な美容法でもあるのかな・・・?


「少し依頼内容の情報が曖昧なのが気になるけど、まぁあの辺にはたいした魔物はいないからな、楽勝だろう」


靴下を履きながらアンさんが今回の依頼内容の評価を下していた。


アンさんは背が小さいけど、その身の丈に似合わず、とても力持ちだ。

身長はドワーフ族の中では大きい方らしいけど、それでも背の高くない私の胸あたりくらいしか無い。


顔つきも幼いけれど、カデナさんと同じく、彼女もジェズさんより年上らしい。

冒険者って若さを保つ秘伝のなにかでもあるのかなぁ・・・?


「最近は普段いないような魔物が突然姿を見せたという話もあったようだ。経験則だけで判断していると、足元を掬われるぞ」


虎人族のハンナさんは女性陣の中では一番背が高く、筋肉も凄くて見るからに逞しいんだけど、カデナさんのパーティーでは一番若いみたい。

カデナさんの半分以下の年齢だという話をいつだか小耳に挟んじゃったんだけど、いくらなんでもさすがにそれはないよね。


それぞれがいつもの服装と装備を身に着け、準備が完了してみんなで部屋の外に出ると、男性陣はすでに準備を済ませて待っていた。


「ったく、ただ着替えるだけなのになんでいつもこんなに時間がかかるんだ?」


待ちくたびれたとアピールするように片足のつま先でトントンと床を叩いていたジェズおじさん。

今日も無精ひげだけど、その無精ひげって出会った頃からずっと変わらないけど、もしかしてそれで整えてたりしないよね?


「ジェズよ、女性の支度はそういうものさ。たとえそれがハンナの様なやつだとしてもな」


いつも一言多いイラーガさんは、またハンナさんに頭をはたかれているけど、たまにわざとやっているんじゃないかと思う時がある。

だって、叩かれているのにちょっと嬉しそうなんだもん。


全員が準備を整え終わり、ジテフリアを出て南の街道を進み、まずは途中の村であるハキフ村へと向かう。

ジテフリアから南へ続いている街道は、南のトレイルという大きな街に繋がっているそうで、とてもよく整備されていた。


少し前に大変なことがあったようで、トレイルへの道は封鎖されて、大量の商人が荷物を抱えたまま戻ってきたんだけど、今はもう解決したようで、閉ざされていた道も解放されているみたい。


ジェズさんはどうせ南へ行くなら商人の護衛をしたらどうかと提案していたけど、カデナさんはトレイルには行きたくないみたいで、いっぱいあった依頼のどれも受けることはなかったんだよね。

何でなんだろう。今度聞いてみようかな。


人通りの多い街道は他のものよりも安全性が高いみたいだけど、それでもたまに魔物とは出会う。

魔物は普通の動物とは違って、アンさんやハンナさんのでっかい斧で斬りつけても中々倒せない。


一匹ならかなり余裕を持って倒せるけれど、二匹だとかなり時間がかかるし、下手したら傷を負ってしまうこともある。

三匹同時に出会った時は・・・全力で逃げろって言われた。


決して倒せないというわけではないらしいけど、何か少し歯車が狂うと命の危険があるということみたい。そういったものに命の危険を冒してまで戦うのは馬鹿のすることだって、カデナさんは言ってた。






冒険者は命をかける職業だけど、日頃からそんなギリギリのやりとりをしていたらいくつあっても足りないってアンさんとハンナさんもいつも言ってる。


危険と隣り合わせだからこと、そのリスクはなるべく少なくするべきだっていうのは私も立派な心構えだと思う。

死んじゃったら終わりだしね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

望んでいなかった異世界転移だけど、渋々生きていきます! ~無料スマホゲーをやっていたらいつの間にか異世界にいました~ 影出 溝入 @kageidemizoi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ