第11話 あれから

「ユウキ!次はあいつを!」


「はい!アンさん!」


私がゴブリンを牽制し、アンさんが体に見合わぬ大きな斧で重い一撃を加える。

ゴブリンは胸に大きな傷を作るけど、こんなもので倒れたりはしない。

まだまだ反撃はくるからそれに警戒しつつ、剣をふるい、アンさんが攻撃する隙を生み出すことに専念する。


私の役目は斧使い二人が攻撃を当てるために相手の動きを止めたり、ひるませたりすることだ。

そのためだったら別に私がダメージを与えなくてもいい。

とにかく相手の動きを抑制することとアンさんやハンナさんの動きに集中し、彼女達の邪魔をせず、その攻撃力を活かすのだ。


最初は後ろから牽制してくれるカデナさんとイラーガさんの動きも気にしていたけど、そこまで気を回すリソースが今の私ではとれず、逆に動きが悪くなったりしてしまった。

そんな私に後衛の二人はすぐに気が付き、こっちが合わせるから後ろは気にするなと言ってくれた。


何度もやってきたこのパーティーでの連携は、最近とても形になってきて自分でも様になってきたかなぁと思う。



私が奴隷として商人と契約し、大きな街へ行くという馬車で移動中に魔物に襲われ、危なかったところをカデナさんのパーティーに救われてから二週間くらい経った。


奴隷として買ってもらうために一緒にジテフリアまで移動した後、輸送中の魔物の襲撃について色々な場所で事情聴取されて大変だったけど、それが終わったらみんなで街の中にある奴隷商館へ行って私を購入してもらう手続きをしてもらった。


フフッ。自分を買ってもらうなんてあり得ないと思っていたけど、この時は嬉しかったんだから変な感じよね。


そしてその後は冒険者ギルドっていう所で冒険者登録をして、ギルドカードっていう身分証兼キャッシュレスカードみたいな凄い便利なものを発行してもらった。

不便で科学も全然発展してない世界なのに、変な所が妙に便利なのよね。


冒険者活動を始めたすぐの頃はゴブリンやコボルトといった魔物に怯えていた私も、このパーティーに色々なことを教えてもらい、行動を共にすることでそれらにも臆することなく行動することが出来るようになった。


今では倒したゴブリンの討伐証明である耳を剥ぐ作業だって平気で出来る。

グロいと思ってたけど、考えたらよく家で料理していた肉だって元は生きた動物だったのだし、少し考え方と視点を変えたら全然大丈夫になった。


人って不思議だよね。ゴキブリにも怯えていたのにね、私。・・・いや、Gはもし今であっても叫んじゃうかも・・・。やっぱ不思議。


「カデナさん、これで討伐証明は全部です」


「ありがとうユウキ。それじゃ、今日はもうこの辺にして明日に備えましょ」


「はい!」


明日からは少し遠出をして、討伐依頼のあったドファ村へと行く予定になっている。

ドファ村へは私達が拠点としているジテフリアから南へ行ったハキフ村をさらに南へ行った場所にあり、そこまでは五日くらいかかるみたい。


五日も歩くなんて生まれてから一度も経験ないけど、最近は魔物と戦ったりして体を動かしているからか、前よりも少し疲れにくくなっているように感じてる。

この世界に来るまでも毎日部活で走っていたけれど、やっぱり普通の運動と魔物との戦闘では鍛えられる強度が違うのかな?


「最近だいぶいい動きをするようになってきたじゃないか、ユウキ」


「ありがとうございます!私も一応頑張ってますよ!」


このことに嘘はない。私は私なりに必死で頑張っているつもりだが、まだまだアンさんやハンナさんのようには動けてはいないこともわかっているつもりだ。

だけど、この世界の冒険者って人とは思えないようなとんでもない動きをするんだよね・・・。


オリンピックに出てる体操選手の様なアクロバットを決めたと思ったら、重量挙げの選手しか持てないような斧を軽々と振り回したりもする。

もしかしたら私が出会ったこのパーティーの人達が特別とんでも超人な可能性もあるけど、そうだったとしたら街に居る時の他の人の反応が普通過ぎる気もするから、たぶんそれも違うんだよね。


この世界に来てもうだいぶ経つけど、生活の方もだいぶ慣れてきた。

お風呂に入れなかったり、トイレがアレだったりと不満もあるけれど、我慢できるレベルかなと思う。


お湯に浸かれないのはつらいけれど、一番生活の中で今のところ辛いのは・・・やっぱり食事かなぁ・・・。


なんというか・・・全体的に味が薄くて美味しくないんだよねぇ。

それに薄味なのに何故か健康的でも無さそうなのが、食欲を無くさせるよね。

調味料も無しに無駄に多くの油で炒めた野菜とか、肉も下処理をちゃんとしていないのか、野性味が凄くて・・・。


野菜そのものも日本で食べていたものより美味しくない気がする。

私達が当たり前に食べていた美味しい作物は農家さんの努力の賜物だったのだなぁとこの世界に来て初めて感じた。


私はここに来るまで毎日のように料理をしていて、自分でも結構得意だと自負していたんだけど、それは美味しい素材と用意された調味料があることが前提なんだなぁと思い知らされた。


日本にいれば焼くだけでも美味しい完璧な状態で購入出来るけど、ここではまずそんなものは手に入らない。

かといって私は解体なんてしたことが無いし、出来るという自信も無いもの・・・。






所詮私が日本で生活してて得た知識やスキルは、発展した技術があってはじめて活かせるもので、この世界で私が出来ることなどほとんどないのだと実感する日々だった。

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