第50話:オメガターカイトの不和
「第一回! チキチキオメガターカイト反省会!」
ちなみにテレビの企画ではなく、俺が我が家で始めた企画だ。もちろん動画を取る気はないし、ネットにアップもしない。
「チキチキ?」
「…………反省会?」
「聞きましたよ奥さん。杏子にATフィールドを張っているそうじゃない」
「あー」
「…………あー」
ダンスパートの練習で、チームじゃなくてコーチに相談するという。その迂回気味のハブに杏子は心を痛めていた。
「しょうがないぞ」
「…………しょうがないです」
まぁ原因である俺が言うことじゃないかもしれないが。
「許してやるわけにはいかんか?」
「マアジ懐広すぎ。好き」
「…………寛容すぎます。好き」
「俺も好きだ。なので和解を求める」
「マアジにちゃんと謝って許してもらえれば不和も解消されると思うけど」
それをしてしまうと俺とルイとタマモの関係がバレてしまう。アイツの執着がちょっと病的な雰囲気を纏っている以上、刺激物は少なめにしたい。
「バレたらまずいってことだぞ?」
「まぁ俺らのうちの誰かが刺されるな」
「浮気の言い訳にも聞こえるぞ」
まぁその側面も無いではない。俺がルイとタマモと恋仲であるのは杏子に秘密だし、杏子とグダグダしていることもルイとタマモには秘密だ。
「でもマアジを傷付けたのも事実で」
「謝罪はされたんだが」
「許したの?」
「…………」
どうだったっけ? もしかしたら許していないかもしれない。
「ふーん。ほーん。マアジは許してないのにボクとタマモには許せって?」
「いやだから仕事に私情を持ち込むなよ」
「思春期人間にそんな器用なこと求めないでよ」
七歳児にアクロバットを求めるようなものらしい。
「…………マアジをあそこまで悲しませたことをあたしは許せそうにありません」
「大好き! タマモ!」
ギュッと抱きしめてキスをする。あまーいあまーいレモン味。
「…………あ……レモンの香りですね」
「マアジ! ボクにも!」
「今日はタマモと。ちゅ。ぅん。っ」
「…………ふや♡……あ♡……好きぃ」
何度も何度もキスをする。甘く蕩けるキスの交換。
「むー! むー!」
で俺の腰をポカポカ叩くルイ。
閑話休題。
「とにかく杏子とどうにかしてくれ。不和が起きてアイドル活動に支障が出たら目も当てられん」
「ネットに公開していい?」
「ぜったいダメ」
もはや炎上も必然だ。
「言っとくけどマアジさえ許可したらボクは屈服宣言をしてもいいくらいだよ?」
「前から聞きたかったんだがルイにとって俺って何?」
「白馬に乗った王子様」
誰のことを言っているんだろう。
「ちなみにタマモは?」
「…………まぁ。……その……排尿の管理者というか」
そろそろ病院が必要なレベルだな。
「お前らだってポテンシャルを引き出せないライブとかしたくないだろ!」
「当たり前だぞ」
「…………ですね」
「だったら」
「杏子に全裸土下座させましょう!」
それで誰が喜ぶんだ?
「…………焼き土下座でもいいですよ?」
いやもうそれアイドルとして復帰できなくなるから。
「そもそもマアジ。杏子に優しいぞ? まだ想ってるの?」
「いや。推しではないんだが……」
「じゃあ今の推しは?」
「臼井幸」
スッとルイが金属バットを構えた。その隣でタマモが三番アイアンを構える。
「待て待て待て! 怒るな! とりあえず握手権はまたジャンケンかなんかで決めろ!」
「オメガターカイト推しってこと?」
「なんというか。感情が宙ぶらりんなんだよ。杏子がオメガターカイトへの熱の七割を持っていたから、今はそこに残り三割とルイとタマモが注いでくれた後追いの感情だけで戦っている感じ」
「好きじゃ………………ないぞ?」
「大好きだ。黒岩ルイ。俺はお前に惚れている」
そしてきっとルイも俺に惚れている。
「…………むー」
もちろんタマモには面白くないだろう。
「はいはい。機嫌を直せ。キスしようか?」
「…………そんなことで騙されされされれれれれれれ……」
うん。騙されてくれそう。
「…………おっぱい揉みます?」
「今度是非にな」
タプンと柔らかく跳ねるGカップのおっぱいを見て、俺は苦笑した。彼シャツというか。タマモは部屋着に俺の服をよく着る。なんでもマアジニウムを補給できるらしい。どういう成分なのかは怖くて聞けない。で、そのアニメプリントシャツのキャラクターの造形が崩れるほどに、タマモの胸はシャツを押し上げている。巨乳というか爆乳。男が着るべきプリントシャツを爆乳女子が着ることで、萌え萌えキャラが可哀想なことになっている。なのにその上で萌え成分が目減りしていないという。おっぱいにだって萌えはあるのよ。
「だから杏子の件だって」
「面従腹背?」
「言葉の選び方はこの際ツッコまないが、ニュアンスは伝わる」
「でもマアジがあれだけ悲しんだのに、そのマアジを悲しませた杏子を……だぞ」
愛されてるなぁ。俺。
「ていうか次のライブ大丈夫か? 失敗しないよな?」
「一応ちゃんとやってるよ。新曲もないからダンスは全部復習だし」
「もし新曲が出たら、ダンスパートのフォロー関係壊滅じゃね」
「一応これでもプロなんですけど……だぞ」
「…………私怨より仕事を優先します」
「信じていいんだな?」
「もち」
「…………ロン」
ツモ。私怨赫怒嫉妬不和。五飜で満貫ですな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます