第44話:ナニを言う


「……おにぃぃぃさん……むにゃむにゃ」


「雑魚すぎるだろコイツ」


 で、タマモとサヤカが風呂から上がって。風呂上がりのアイスを食べて。その後歯磨きをして。そうして「さあこれからどうなる!?」と思ったらサヤカは寝落ちしていた。せめてそこはメス堕ちしてほしかったんだが。


「ちなみにここでエッチな悪戯したら犯罪かね?」


「…………犯罪です」


 だよなー。どうせだから縛りプレイして高らかに勝利宣言をしたいのだが、それも叶わず……と。縛り上げて、何もできないところにエッチな行為を強要するのは健全な男子の憧れのシチュエーションだが、ここでやると通報される。


「…………あの……マアジ」


「なんだ?」


 今は交代でルイが風呂に入っている。シャワーを浴びて、身を綺麗にしているのだろう。それが何のためかと言われると俺には議論する気が起きないというか。実際にコイツ等の性癖が歪んでいることを俺は知っている。その上で俺の社会地位を脅かす要素を削った場合、どうしてもヘタレになるしかないという現実。


「…………キスして……ほしいです」


「いいぞ。こい」


 涼やかに吐息が聞こえる。スルッと俺との間合いを潰すと、タマモは鮮やかなキスをした。ディープでもフレンチでもハリウッドの濡れ場でもない。簡素で、丁寧で、誠心誠意のキス。


「…………えへへ」


「もしかしてキスしたかったのか?」


「…………マアジが入院中は出来ませんでしたから」


 まぁ私立とはいえ病院でイチャイチャするわけにもいかず。オメガターカイトの政治力は既に芸能界の一角に君臨している。俺の見舞いにルイとタマモが現れると問題が頻出する。


「…………でも自分を慰めるのも限界があると言いますか」


「まぁそうだろうな」


「…………引かないんですか?」


「俺も結構業が深くてな」


「…………あたしはいいんですけど」


 言うと思った。


「アイドルになった自分を恨め」


「…………マアジは……アイドルじゃない女の子に迫られたら……どうします?」


「まぁ断るな」


「…………可愛い女の子でも?」


「俺にはルイとタマモがいるから。それでいいだろ?」


「…………はい……はい!」


 そこで目をウルウルさせて泣かれると、俺も愛されてるなーって思っちゃうんだが。


「来い。タマモ」


「…………マアジ……マアジ……マアジッ」


 さっくりとした遠慮のキス。唾液を交換しない。口内に舌を入れない。ただ唇を重ねるだけのキス。それでも夢中にさせるあたり、俺はタマモに愛されていると実感する。それがあるから俺はタマモを嫌いになれないし、彼女を見離そうとも思えない。だから、というわけでもないが。


「おやすみ。タマモ」


 催眠成分を香らせて、彼女を眠りに誘う。こういう時ミストルテインって便利だなぁと思わせる。


「…………んぅ……ん」


 そうして俺の発した成分を受けて、瞳をトロンと溶かして、眠りに移るタマモ。もちろんエッチな悪戯は可能だが、俺はそれをしない。もういっそ裸に剥いてもいい気もするが、そこまで鬼畜になるのも勇気がいる。まぁ。要するに。ヘタレってことだな!


「寝たぞ?」


「ああ、眠らせた」


 風呂から上がったルイが聞く。俺はそう答えた。ミッションコンプリート。


 勝手に寝落ちしたサヤカと、俺が催眠したタマモ。


 で、ルイを見やって。


「……………………」


 俺は絶句する。何というか。あり得ない格好を見て。まぁ端的に言ってエロかった。


 Dカップの胸を補填しているブラジャー。股を隠しているパンツ。その二つの上から重ね着しているスケスケのベビードール。もうガッツリやっちゃうタイプのネグリジェだ。


「えーと……ルイさん?」


「リード……握って?」


 で、さらにそのエロ下着を装着しているルイは首に首輪を嵌めて、その首輪に接続しているリードを俺に恭しく捧げた。俺がソレを握れば、つまりメス奴隷プレイの完成だ。


「あと。言って欲しいコメントリスト」


 で、ポチポチとスマホを弄って、俺のメッセージを送る。そこに書かれたことを言えとでもいうのか。




『メスブタ』

『ほら。ブヒィブヒィって鳴いてみろ』

『生きていて恥ずかしくないのか?』

『お手。おかわり。沈々』

『お前如きメス奴隷に俺のアレをやるわけないだろ』

『俺の足でも舐めて自分を慰めてろ』

『無様だなぁ。所詮お前も性欲に支配された卑しいメスだってことが――』




「俺に何を言わせるつもりだテメェェェェッッッ!」


 怒っていい。俺は。今。怒っていい。


「ブヒィ。ブヒィ……」


「お願いします。日本語で応対してください」


「もうね。ボクはマアジに凌辱されたいぞ。リードを握られて二足歩行を禁じられたい」


 どこのマイナス十三組だ。


「マアジにとっての都合のいいメスになりたいの。要らない? そういうの?」


「……………………欲しくないと……言えば……ウソになる」


「ボクはいいぞ。マアジの足を舐めるのも。ブタの真似をするのも。お預けされて示威行為に浸るのも」


 コイツ。真正だ。


「俺に引かれるって懸念は無いのか?」


「マアジに虐げられるのはとても興奮するの。ご主人様の素養があるぞ。マアジは」


 なんという嬉しくない能力診断。やだっ。私のメス奴隷ヤバすぎッ。


「せめて四つん這いになっているボクのお尻を叩いて?」


「そういう高度なプレイは俺じゃない奴に頼め」


「無理」


「ナゼェ……」


「マアジに服従するからこそ快感だぞ。他の人では無理。マアジがボクのファンを嘲笑いながらメス奴隷になったボクを好き勝手にする妄想でボクは御飯三杯いけるから」


 それはファンを裏切るっていう思想にはならんのか? ならんのだろうな。俺に弄ばれて、服従して、メス奴隷プレイをすることがルイの性癖を満たす唯一の欲求なのだろうから。だからって俺がそういうプレイをしないって言え言えいえいえぃぇぃぇ……。

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