第41話:推しのアイドルグループのメンバーが俺の家に入り浸る件について


「お大事に」


 ルイの誘拐事件からこっち。俺は私立の病院に入院し、ほぼホテルも同様の暮らしをしていた。佐倉財閥の経済力と政治力を思い知った気がする。サヨリ姉も見舞いに来てくれたが、彼女が来ると俺の健康から遠ざかるんだが。そこはまぁ議論しないとして。


「お世話になりました」


 看護師さんにお礼を言って、花束を受け取り、俺は自分のマンションに帰る。


 ルイとタマモは見舞いに来なかった。というか俺が拒絶した。私立の大きな病院で男の見舞いに来たら、患者が詮索する。そこから俺たちの関係がバレると、それはそれで。


『今日退院だぞ?』


『一日千秋の思いで待ちました』


 そう言ってくれるだけで嬉しい。特にルイは、俺が誘拐現場で倒れて、その後のことをひどく心配していた。まぁいきなり異能使いすぎでぶっ倒れれば立場が逆なら俺も心配する。とくにミストルテインを使うことに制限などはないのだが、神経根を経由して行われる脳と肉体の接続にもキャパシティが存在する。コンピュータと同じだ。使いすぎればオーバーヒート。


 なので普段は使用スペックを落として利用しているわけだ。素足でアスファルトを走ったのもマズかった。ミストルテインによって修復力は植物並とはいえ、治癒するまでは超痛い。構築理論上、俺の再生能力は植物並で、それこそ腕を切り落とされても、しっかり栄養を取れば再生すると言われている。まぁそんな事態が来ないことを俺は祈っているのだが。


「おにーさん」


 で、私立の病院から退院。看護師さんに花束を貰って、それを持て余しながら電車に乗る。そうすると幼女に声をかけられた。赤く反射する黒髪の、どこかこっちを揶揄うような笑み。俺のお尻を撫でて、逆痴漢をする幼女を、俺は知っていた。


「……片中……サヤカちゃん?」


「あったりー。よく知っているにゃ?」


「そりゃまぁ」


 いわゆるメスガキ系ビッチアイドル。実際の年齢は公開されていないが、少なくとも高校生以上ではあるはず。だが年齢に関わらず、起伏の少ない肢体と、幼い容貌。ファンを揶揄うような言動と合わさって、メスガキと呼ばれている。これでしっかりと芸能人はしていて……というか実状をバラすならオメガターカイトのメンバーだ。


「お兄さん。これからどこ行くにゃん?」


「言う必要あるか? これ?」


「我が家に帰って黒岩ルイと古内院タマモとセックス?」


「ッッ!」


 反射的に。俺は幼女の口をふさいだ。ここは電車だ。誰かに聞かれたコトである。


「そこで焦るってことは本当にゃんだ」


「な、なんのことかなぁ?」


「さほど難しい話でもにゃいんだけどね」


 俺は電車を降りて、片中サヤカちゃんも電車を降りる。俺は退院したのですぐにでも家に帰りたいのだが、困ったことにサヤカちゃんが付いてくる。


「そもそもお兄さんオメガターカイト推しでしょ?」


「何でと聞いていいか?」


「握手会に来てくれてるじゃん」


「片中さんの列に並んだことは無いはずだけど」


「ああ、イケメンは基本的に顔覚えるのにゃん。ちょっと前まで杏子ちゃんの列に並んでいたけどこの前はルイお姉ちゃんの列に並んでいたでしょ?」


 よく覚えてるなそんなこと。


「難しい話じゃにゃいよ。目の前のファンに対するリソースを三割五分くらいにして、周囲のイケメンを観察しているだけだから」


「そもそも俺イケメンか?」


「自覚にゃいの?」


 いや。だって。なぁ?


「お兄さんと握手してたルイお姉ちゃんとかメスの顔してたにゃん。で、あーこれはって感じ」


 色々とバレすぎるだろ。これでは何を言っても説得力がない。


「で、なんでそれで黒岩ルイちゃんと古内院タマモちゃんが俺と関係あるって言えるの?」


「んー。それも複雑じゃにゃいよ。少し前にお兄さんをストーカーして、住所割り出したんだけど」


 警察の仕事の範疇だろソレ。


 はんざーい。


「そこがびっくり。ルイお姉ちゃんのマンションじゃん? で、ルイお姉ちゃんにメッセ送ってさ。今どこにいるーって聞いたら自宅って言ってるの」


「はぁ」


「で、エントランスの呼び出しボタンでルイお姉ちゃんの部屋に繋げても誰も出にゃい。つまりその時点でルイお姉ちゃんや、ルイお姉ちゃんに招かれているはずのタマモお姉ちゃんは自室にいにゃい。じゃあどこにいるかって話ににゃれば、同じマンションの男性が候補にあがらにゃい?」


 全部バレていた。


「で、そうするとお兄さん何者って話ににゃるよね? メスガキ系ビッチアイドル片中サヤカとしてはお兄さんの股間のアレには興味津々で」


 言うほど大きくもないし連射性も無いぞ。


「だ・か・らぁ。お兄さんの部屋にあげて?」


「……………………はぁ」


 此処で抗弁しても無駄か。


「まぁ上がるのはいいが。出来ればこのことは秘密にしてほしいんだが」


「そうだなー。お兄さんの態度次第かなぁ」


 さすがメスガキアイドル。男を脅迫することに慣れている。


「で、タマモお姉ちゃんの身体ってどうだった?」


「どうと言われても」


「あんな胸もお尻もバインボインでしょ? 股間バスターランチャーじゃにゃい?」


 ここでまだ触ってもいないと自供して、どこまで同意を得られるだろうか。既に片中サヤカちゃんは俺とルイとタマモの関係を「そういうものだ」と認識している。となるとここで抱いてもいませんという意見にどれだけ説得力があるだろう。


 まぁいいか。とりあえずここで彼女に従わなかったら、俺としても色々と終わる。ミストルテインの適合率から言って、佐倉財閥が俺を見捨てることは無いだろうし、最悪ルイとタマモのアイドル家業が終わっても、我が家で保護すればいいか。


 エントランスでキーナンバーを押して、マンション内に入る。もちろんサヤカちゃんも一緒に。俺は今……すっごい嫌な予感がしている。


「……た……ただいま~」


 俺の勘違いであってくれ、とオズオズと玄関を開けると、そこには裸エプロンのルイとタマモが。それも晴れやかな笑顔で俺を出迎えてくれた。


「御飯にする?」


「…………お風呂にする?」


「「それともわ・た・し・た・ち?」」


「うわー。お姉ちゃんたちがメスににゃってる~」


 パシャッとサヤカちゃんが裸エプロンで出迎えたルイとタマモを写真に収めた。もう言い訳の余地なくアウト。最新のスマホのカメラは、場合によってグラビアに使われるカメラ並みに性能がいい。


「サヤカ?」「…………サヤカちゃん?」


 どういうこと? と目で俺に問う二人。言ってしまえば俺が聞きたいくらいなのだが。


「で、その格好は?」


「マアジを出迎えるための正装」


「…………大丈夫です。裸じゃないんで」


 そこに安心を覚えるほど、俺の煩悩は百八つではすまんのだが。


「お兄~~さん。これからはサヤポンもお兄さんのハーレムに入るからね?」


 推しのアイドルグループのメンバーが俺の家に入り浸る件について。




※――――――――――――※




これで一応終わりです。

ここまで読んでくださってありがとうございました!


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