第38話:ヒーローは遅れてやってくる【ルイ視点】
怖い。恐い。惧い。畏い。
ボクこと黒岩ルイが感じる恐怖はそれこそ青天井だった。マアジと寿司を食べて、後は帰るだけ。その気が抜けた瞬間を狙われて、車に拉致された。誘拐。と分かっていても、出来ることはそう多くない。ボクの恐怖が膨れ上がるのを他所に、スーツを着た誘拐犯はボクに猿轡を咬ませて、拘束していた。このままでは彼らの良いようにされる。そうとわかって、でもボクには何もできない。
「~~ッ! ~~ッ!」
悲鳴を上げようにも声が出ない。女子としてここで浚われることの意味を分からないではない。凶悪な悪意がボクを押さえつける。ぶっちゃけ処女はマアジに捧げたいのだ。であればこの状況を打開する必要が出てくる。
「しかし可愛いな。黒岩ルイちゃん」
誘拐犯がボクを見て発情する。その事にさえ悪寒を覚える。
「おい。ここでするなよ」
ボクの肉体を視姦する男に、運転席の男が忠告する。どうやら組織的にボクを狙っているのだと分かって。けれど何もできない。
「~~~ッ!」
猿轡を咬み切ろうとして、歯が疲れる。このままでは確実にアウトなのだけど打開する手段が思いつかない。
「大丈夫だ。怯える必要は無いぞ」
ねちっこい中年の笑みで、スーツの男はそう言う。
「ちょっとレイプするだけだから」
それで何を安心しろというのか。
「大丈夫大丈夫。アイドルでしょ? 男のアレとかくわえてるんだろ?」
処女だぞボクは!
「気にしなくていいって」
ボクの頭を撫でて下卑た目を向けてくる中年。
それからボクの衣服をさすってスマホを取り出す。
「あったあった」
何をする気だ。ボクのスマホで。
「別に奪おうってわけじゃないよ?」
そこに悪意が加味しないのなら、ボクとしても安心できるんだけど。
「ちょっとね。ルイちゃんをレイプするだけ」
まさか。
「で、君のスマホでレイプ動画を撮って、君のアカウントでSNSにアップする。ただそれだけだから」
ヤバい。マジだ。
アイドルとして終わってしまうことを、このスーツの男たちはやろうとしている。デジタルタトゥーなんてものじゃない。そんなことをされたらボクの人生そのものが終わる。
「~~~ッ! ~~~ッ!」
もぞもぞと動こうとするが、既に押さえつけられて。筋力では叶わない。車内なので悲鳴も外に届かない。というか、このまま人気のないところまで連れていかれて、レイプされてハイ終了。
そんなことは御勘弁だ。
「どうせ処女じゃないんだろ? おじさんにも楽しませてね?」
処女だっつーの! 誰が貴様に初めてをやるか! アレを出そうものなら食いちぎってやる!
「ああ、顎を固定する器具も準備してあるから大丈夫だよ。おじさんのアレをたっぷりしゃぶろうね?」
嫌だ。本気で無理。こんな性欲みたいな目で見られることが無理。
マアジの照れ臭そうに罪悪感を覚える瞳がいい。
けれど私の危惧とは別に、車は普通に道を進む。押さえつけられて外をよくは見えないけれども、どう考えてもこのまま温泉に行くようなテンションでもない。
誰か助けて!
とは言っても女子一人など無力なもので。
私はそのまま車で連れられて、とても人のいないマンションに連れられる。
使われていないのか。あるいは事情があるのか。とにかく人の目がない部屋だ。防音対策もしているのか。悲鳴を上げても周りから心配される状況でもない。
「何するんだぞ!」
猿轡から解放されて、そう睨むが、おっさん連中はニヤニヤと笑うばかり。
「するのはこれから。レイプだよ」
「させると思う?」
「ああ、大丈夫。ロープも持ってきてるし、その他の器具もあるし。多分抵抗できないと思うよ? まぁ腰振ってりゃ終わるから。最悪妊娠するかもだけど、処女受胎よりいいでしょ?」
まったく良くは無いのだが。
「まぁそんなわけで、諦めて」
諦めきれるか。諦めたらそこで試合終了だ。
「ちなみにこのマンションは、まだ売りに出されてないから、おじさんたち以外は誰もいない。助けは来ないよ」
多分そうだと思った。そこをぬかる誘拐犯でもないだろう。
「お願いします。レイプだけは……」
「まぁそう言うよね。でも無理。おじさんたちはルイちゃんのレイプ動画を取って、ルイちゃんのSNSにアップするまでがお仕事だから」
「そんなことしたら……」
「有名人になれるね。よかったねー。トップアイドルの地位は不動のものになるよ?」
正気かお前ら。それで警察から逃げられるとでも。
「まぁルイちゃんのスマホに指紋は残るだろうけど、それだけじゃ警察はね」
うぐぅ。
「ま、気楽に楽しんでよ」
楽しめるか!
「レイプしない方法もあるにはあるけど」
「拝聴するぞ」
「そっちから誘って? 合意の上ならレイプじゃなくなる」
それをレイプって言うんだよッ!
「入れたら恨むぞ!」
「大丈夫。おじさんたちを捕まえるより先にルイちゃんが破滅するから」
「いや……ぁ……いやぁあ!」
逃げないと。逃げないと! 逃げないとッ!
「もう逃げられないから勘弁しなよ。単に男のアレを股に挟むだけじゃないか」
それがアイドルとしては終わりだという考えに、至ってはいるのだろうけど。それによってボクが失う尊厳についてまでは思考が及ばないらしい。
「助けて! マアジ!」
ボクが最後に呼んだ男の子。その名前だけが一縷の希望。溺れる者は藁をもつかむ。そのどこまでも儚い希望の名を呼ぶと、
「あー。はいはい」
マアジは普通に返事をした。
「…………」「…………」「…………」
三人のおっさんたちが、四人目の男の存在に此処でようやく気付く。というかボクも今気づいた。
「よ。ルイ。見学していいか?」
もちろんいいわけもないのだが。
「なんだテメェ! どこから現れた!」
「普通に後をつけただけだ」
さらわれた現場にはマアジとタマモもいた。ちなみにそこから車で三十分は経っている。後をつけたと言われても、現状の確認をすると生物の能力限界という矛盾が聳え立つ。
「ああ、足が速いの俺」
それで話が済むのなら、オリンピックは成立しない。
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