第27話:猫耳スクール水着


『じゃあ勉強会はこっちでするということで』


『そうだな』


 つまりルイの部屋でするということだ。ちょっと興味はあった。いつも俺の部屋にばかり入り浸っているので、アイツの部屋がどうなっているかを俺が気にしないわけもなく。


「お邪魔します」


 で、ケーキを買ってお邪魔する。


「いらっしゃいだぞ!」


「…………いらっしゃいです」


 で、勉強会をする家主と、その友人の出迎えに、俺はフリーズする。


「何してんの?」


「勉強だぞ」


 いや。いや。問題はそこじゃない。


 そもそも勉強をするような恰好ではない。


 ルイとタマモ。


 二人はスクール水着を着て、頭に猫耳バンドをつけていた。徹底しているというのか。胸のネームスペースにはしっかりと「るい」「たまも」と書かれている。もちろん俺には意味不明だ。家でスクール水着を着る必然性も。その上で猫耳バンドをつける必要性も。わからないことばかりだ。


「これはマアジに対するサービスだぞ」


 ちょっと何言ってるか分かりません。


「スクール水着を着たら男子って嬉しいものじゃないの?」


「超嬉しい」


「よかったぞ……」


 そこで安堵されるのも違うのだが。


「っていうか。きつくないので」


 水着を着るだけなら幾らでも選択肢はある。あえてスクール水着を着用しているのは俺としては「いいぞ! もっとやれ!」という意見なのだが。それはそれとしてルイはDカップだし、タマモに至ってはGカップだ。普通に考えてワンピース系の水着はかなり無茶。実際に二人が着ているスクール水着は徹底的な学業用で、つまり育成が進んでいない女の子が着るべき受注品。それを胸が大きい二人が切れば胸元がぱっつんぱっつんになってしょうがない。


「きついぞ」


「…………きついです」


 特にタマモはヤバい。本気でそのままおっぱいが飛び出るんではないのかと危惧するほどに巨乳をスク水が押さえこんでいる。さすがに服のボタンじゃないのだから、巨乳の圧に屈してはじけ飛ぶスク水の生地ではなかろうが。


「形崩れたりしない?」


「…………ちょっと着る分には大丈夫ですよ。……えへへ……マアジの視線が気持ちいいです」


 おっと。確かにまじまじとスク水の胸元を見てしまった。溢れんばかりのブルンブルンと揺れるおっぱいは、スク水で拘束されていてもサイズが乱暴だ。


「きつかったら止めていいからな?」


「…………つまりここで脱いでいいということですか」


 いやー。それはちょっと。猫耳で全裸のGカップを見れば俺もオオカミになりかねない。


「いいから勉強するぞ」


「逃げた」


「…………逃げましたね」


 やかましい。


「で、はい。数学と物理の問題集」


 俺はドン! ドン! と問題集を置いた。


「ナニコレ?」


 で、積み重なった問題集を目にして、猫耳スクール水着のルイが呆然とする。


「問題集」


「いや。厚さが何ミリ?」


「まぁ五センチはあるな」


 ほぼ書類と言っても過言ではない量だ。


「……これをやれと仰るぞ」


「…………マアジ先生……正気?」


 青ざめる二人には悪いが、正気を疑うという意味でなら、俺の方が疑いたい。何で君らはスクール水着を着て猫耳バンドをはめているんだ?


「いわゆる数学で理解できない人間に一番必要なことってわかるか?」


「公式の適用」


「…………演算能力?」


「慣れだ」


「慣れ?」


「そ、いわゆる感覚肌で分からない作業は数をこなして覚えさせる。徹底的に問題を解き続けて、公式をどこで使うのかを脳にインプットする。別にルイもタマモも足し算や引き算が出来ないわけじゃない。つまり能力的には数学も物理も理解できるはずなんだ。じゃあ何でできないかって言えば、慣れが足りないから」


「えーと」


「というわけで。解け。分からないところは俺が教えてやる。なので徹底的に解け。自衛隊の隊員が銃の訓練をするのに射撃場で撃つのと一緒だ。答えに辿り着けるようになるまで、徹底的にしごく。別に受験レベルを要求する問題じゃない。お前らが受けるテスト範囲だけを抽出しているから、無駄な勉強ってわけでもない。ついでに一つ言い訳も潰すなら、俺はこの問題集をコンビニでコピーするのに結構金を使ってる」


「えー……じゃあそのコピー代払うから……」


「もちろん消費したお金はお前らの好成績で応えてくれるだろ?」


「…………お……鬼……」


 言うほどじゃないぞ。俺が文系に割いているリソースくらいだ。


「そんなに記憶するの苦手だぞ?」


「マジで無理。っていうかヨーロッパのジャガイモの生産量とか憶えてどうしろって言うんだ?」


 おそらくだが二人は記憶力いいのだろう。今までに既に幾つかのシングルを出しているし、カンペ無しでそれを歌い上げる記憶力も持っている。俺なんてカラオケで歌詞を出してもらわないと歌うことすらままならない。


「…………おっぱいが……キツイ」


「無理すんな」


「…………この問題集の方が無理」


「それは納得しろ」


 俺だって苦手な世界史を覚えるのに手いっぱいだ。


「ていうか加速度って何? 速度とは違うの?」


「だから速度を更に時間で割って。時間ごとに変化する速度が加速度と呼ばれていて」


「つまりボクがマアジに抱いている恋愛感情を加速度?」


「定速運動じゃなければな」


「時間ごとに大きくなっていくよ?」


 さいですかー。


「…………あのー……休憩は」


「好きにとってくれ。問題さえ解けば、どういうペースでやるのかはそっちに任せる」


「…………うぅ……鬼」


 せめてスクール水着じゃなかったら、俺も少しは加減したのかもしれないが。なんていうか。正気かコイツ等感がハンパない。


「じゃあコーヒー飲んでさ」


「…………いいですね」


「俺にもくれ」


「媚薬混ぜていい?」


 却下。あと媚薬は俺も作れるぞ。体内に飼ってる植物で。

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