第26話:テストは受けるという気概を評価して全員合格にすべき


「うがー! わかんねー!」


「つまりこの時のXは……どういう」


 家に帰ると、まぁ毎度は毎度で毎度ながら。ジャージ姿で眼鏡をかけている黒岩ルイ。俺のシャツを着ている古内院タマモ。それらがリビングのテーブルで勉強をしていた。俺はとりあえず無事杏子の家から帰れたので、帰宅してキッチンに立つ。今日は焼きそばだ。それも塩焼きそば。ポン酢で食べる奴。


「ねえ。マアジ!」


「なんだ」


「勉強得意だぞ?」


「得意ではないが大学受験はするつもりだからそこそこ予習復習はしている」


「教えて!」


「…………同じく」


 いや、それより思うところを言っていいか?


「何?」


「勉強ぐらい自分の部屋でしろよ」


「無理」


「ナゼェ……」


「我が家は集中力が継続しないの。漫画とかいろいろ読んじゃって……」


「たしかに俺の部屋にはマンガねえな」


「パソコンのお宝画像は見たいけど」


 却下。


「…………ちなみに同人誌ですよ」


「ちょ! タマモ! それ言うぞ!?」


「同人誌ね」


「待って! 引かないで! 同人誌って言っても控えめだから!」


「ちなみに今の推しのカプは?」


「トド伊豆! はっ! これが誘導尋問!?」


「トド伊豆かぁ。確かに在りだよな」


「…………え? 腐女子に理解が?」


「言っておくが俺の性癖はかなり広いぞ。二次元限定でいいならBLも射程内」


「マアジって腐男子?」


「いや。BLも含むってだけ。可愛い子だったら男でも女でもえり好みしない」


「ちなみにヒラアカで言えば?」


「トド伊豆」


「同士!!!!」


 キラキラした目を向けられた。顔がいいから辛うじて美少女の体裁を保っているが、今の黒岩ルイは小豆色のジャージに度の強い眼鏡をかけた腐女子相応だ。


「とりあえず勉強は後にしろ。今日は焼きそばだ」


 俺は大皿を置いて、小皿を三枚ルイとタマモと自分に配る。


「好きに取れ」


「いただきます」「…………いただきます」


 あぐあぐもぐもぐんぐんぐ。


 一生懸命焼きそばを食べる。


「これいいぞ」


「何が?」


「塩焼そばをポン酢でって奴。さっぱりして食べやすい」


「…………結婚してください」


 却下。


「今の俺の推しは臼井幸ちゃんだからな!」


「可愛いっていうか声がエロイよね」


「…………アイドル声優の濡れボイスは達してしまいます」


「だから一緒に臼井幸ちゃんのライブ行こうな」


「元気になってくれたのは素直にうれしいんだけど。推しがボクじゃないってどゆこと?」


「…………あたしならいくらでもしてあげますのに」


 そういうのいいから。


「ズビビー」


 で塩焼そばを食べる。食べつくす。その後は俺が食器を洗って、ルイとタマモが風呂に入り、俺は風呂に入る前に家庭教師を務めることになった。ガンガンに利かせたクーラーは、まぁ最近が夏だなぁと思わせる。


「で、どこがわかんないの?」


「数学全部」


「物理全部」


 もう典型的な文系脳。


「んー。まぁ理論通りに説明してもいいのだが」


 俺の指導が芸能科高校の数学担当講師とどれだけ違いがあるのかという話で。


「…………芸能科ってテストで点数取れば……卒業させてくれるんですよ。……特にルイは芸能関係で忙しいから……出席はあまり芳しくなく」


「つまり期末テストでは学校側に説明できるだけの点数を取る必要があると」


「イエスアイドゥー」


「まぁ言いたいことはわかる」


「ちなみに分かりやすい説明をしてくれる?」


「やってもいい」


「代わりに身体を差し出すとか」


「寝る前にキスくらいは要求するが、それはそれとして、文系脳に理系を教えるときは一番簡単な方法があってな」


「それをお願い」


 わかったよ。


「じゃあ準備があるから今日は解散。文系なら国語と英語と歴史は何とか自分でやれ」


「そっちは多分大丈夫かな? 記憶力はいいし」


「むしろそれが羨ましい。俺は典型的な理系脳だから」


「憧れる要素ある?」


「いや理系って公式だけ憶えていれば数字変えて応用するだけで答えが解けるのよ。だから覚えることが少なくて簡単なわけ。歴史とか社会って試験範囲のカテゴリー全部覚えろって言われるだろ。しかもそこに公式とか数式展開が存在しない。覚えるだけの詰込みを勉強って呼ぶか? 必要な時に情報を引き出す能力を欲しているなら常に教科書持ち歩けばいいだろって話」


「わからない世界だぞ」


「…………あたしたちは分かり合えませんね」


 とは言っても期末テストの範囲は一応憶えたけどな。


「数学と物理は明日から叩きこんでやる。後、ちょっと気になって。勉強するならルイの部屋でしてみないか?」


「だめー! ボクの部屋は腐海だから!」


「…………腐海っていうか……まぁ腐海ですね」


「どうせBL同人誌が散乱してるんだろ。俺はそっちに理解あるぞ」


「黒子のサッカー!」


「黄黒」


「ヒラアカ!」


「トド伊豆」


「手術開戦!」


「語悠」


「…………ガチですかマアジ? 腐女子に媚び売っているわけでなく?」


「もちろんヒラアカならトガちゃもあり。手術開戦なら硝詩もあり」


「ゆ……百合カプ……」


「言ったろ。範囲広いんだって」


 じゃそういうわけで。今まで近かったのに行ったことのないルイの部屋にお邪魔することになった。どういう同人誌があるのかちょっと楽しみ。まぁ勉強会もするのだが。

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