第20話:ちょっとした疑問点
「くあ……」
俺は欠伸をして、目を覚ます。見ればベッドには俺の他に二人の女子が寝そべっており、クースカ危機感もなく寝ていた。俺が襲ったらどうするつもりだろう? とはいえ史上最強級のヘタレである俺に、黒岩ルイと古内院タマモを襲うことなどできはしないのだが。寝ている内におっぱいを揉む程度は出来るかもしれないが、そんな自己嫌悪で押し潰されそうなことはやらない方が賢明だろう。
「仕方ない」
二人を引き剥がして、一回歯磨きをすると、キッチンに立つ。とは言ってもすることは然程でもない。バターロールを取り出して、サラダを準備して、粉スープを溶くためのお湯を沸かすだけ。手料理と言えるのか甚だ疑問なお手軽インスタントだ。
「おわよぅ」
で、まずルイが起きてきた。そもそもコイツは隣に自分の部屋があるのだが。俺のアロマテラピーが無ければ寝られないと言うのは果たして本当か。
「ほい。食え」
パンとサラダとスープ。粉スープをお湯で溶かして差し出してやる。
「愛してるぞ。マアジ」
「そういう冗談はいいから」
「本気なのに……」
不満そうに言ってくれるが、アイドルは恋愛禁止だ。
「じゃあチェキする?」
「ネットに流れたらマジで破滅するぞ」
「でもそういう破滅的恋愛って言うのも憧れちゃうんだぞ」
「いいから食え。話はそれからだ」
で、タマモも起きてくる。
「…………おはようございます」
「おう。食え」
彼女の分の朝食も用意する。もぐもぐと食べ始めるタマモ。
「…………あのー。……今日は」
「学校だ」
普通に平日。というかそもそも平日に俺の寝室からアイドルが起きてくるという事態が有り得ない。平日関係ないけど。
「…………角夢杏子と一緒の……学校生活ですか」
「そう! 推し! 最高!」
「…………あのー」
「何か?」
「…………これは悪意があって言うわけではなく……単なる想像なのですが」
はあ。
「――――――――――――」
ありえないことを、タマモは言った気がする。
「…………いえ。……だから想像です」
えーと。え?
「…………なんなら聞けばいいのでは?」
…………。
「たしかにだぞ」
そして普通にルイも頷いた。
「別にタマモを支援するわけじゃないけど。ありえない話と一蹴はできないぞ」
俺はバターロールをもぐもぐ。
「しかしなぁ」
そういうことがあるか? というかそんなことして何の得が?
「さあ?」
「…………さあ?」
そりゃ二人にもわからんよな。
「「御馳走様でした」」
「シャワー借りるねー」
「…………あたしもその後」
もう好きにしてくれ。
俺は食器を洗って、歯磨きをして、二人の後でシャワーを浴びて。
「…………」「…………」
「なんだよ?」
「シャワー直後のマアジってかなりエロイぞ」
「…………ワクワクが止まりません」
「お前らに言えたことじゃないから」
俺から言わせればルイとタマモの方が百倍エロい。肩にかけたタオルとか、下着が透けて見えるシャツとかもう。
「じゃあエッチするぞ?」
「しない」
「マアジは紳士すぎるぞ」
「こっちだってやりたいの我慢してんだよ」
「…………しなくていいのに」
いやね。だからアイドルがニャンニャンしたらマズいだろ。ファンは引き潮のように去っていく。そして人気のなくなったオメガターカイトは事務所とともに終了。俺の推し活動も終わりだ。
「にしてはボクを家に上げてるぞ」
「バレなきゃいいんだよ」
「そうだぞ。バレなきゃいい。だ・か・ら……ね?」
俺に抱き着いて蠱惑的な瞳で見上げるルイ。黒岩ルイは魔性の女だ。
「いいからお前はオメガターカイトを全国区にすることだけ考えてろ」
「もう売れてるぞ」
「じゃあ個人で売れろ」
「売れてるぞ」
そうだった。テレビCMにも出ているし、グラビアアイドルとしても順調だ。
「むう」
では何をどうすれば。
「後は電撃結婚発表して引退だぞ」
「まだお前には先がある」
だから俺は抱けない。
「とりあえずキスだけでも」
「昨夜もしたろ」
「マアジとのキスはチュー毒になりそう」
微妙に発音間違っているが。
「…………マアジ……あたしともキス」
こいつらはー。本気で俺とキスする気か。というか既にしてんだけども。
「おねがぁい」
「…………代わりに脱ぎますから」
「ん」
まさか脱がれるわけにもいかないので、比較的早急に俺はルイとタマモにキスをした。唇が重なる。そうして相手の唇の体温を感じて、その唾の味を噛みしめる。
「えへへ」
で、俺にキスされたルイは気持ち悪く笑った。
「…………ふや」
タマモは顔を赤らめる。
本当に大丈夫なんだろうな。事務所から訴訟とか起こされると俺は実家に迷惑をかけるんだが。
「大丈夫。誰も見てないぞ」
「…………だからもう一回……今度は胸を揉みながらプリーズ」
できるかぁ。そんなこと。
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