第18話:求楽園


「むー」


 だからそう睨まれてもですね。食器も洗い終わって、俺はリビングでテレビを見ていた。正確にはネット動画。オメガターカイトの公式チャンネル。そこでは黒岩ルイと古内院タマモがアイドルらしくキャッキャと企画を楽しんでいた。元より地頭はいいのだろう。クイズ番組でも普通に回答している。むしろ他のメンバーがおバカな回答をしていた。


 で、今は古内院さんはいない。帰ったわけではなく、トイレに避難していた。


 その合間を縫って、俺に近づく黒岩ルイ。俺の膝をつねって「ボクは怒っているぞ」アピール。それからトロンととろけた目をして、俺の唇にキスをしてくる。重なる俺とルイの唇。ピチュッと唾の跳ねる音がした。


「マアジはボクのものだぞ。誰にも渡さない」


「だからって――んぐ」


 またキスされた。


「マアジ……まぁぁあじ……ダメ……ちゅ……ボク以外は……だめだぞ……んちゅ」


 俺の唾液を舐めとってルイは抑えきれない欲求を俺にぶつける。


「とは……ん……言われても……」


 俺の方もキスを返しながら、どうしたものかと悩んでしまう。


「…………あの……戻りましたけど」


 で、トイレから戻ってきていた古内院さんが、キスをしている俺とルイをジト目で見ている。


「お帰り。タマモ。おしっこ出来た?」


「…………ええ……マアジさんに舐め取ってもらいたいほど」


 あのですな。お前ら俺のことをどういう癖の人だと思っていらっしゃるので?


「メス奴隷の調教師」


「性奴隷のご主人様」


 オーライ。わかった。つまり破滅したいわけだな?


「まっさかー。でもマアジが保証してくれるなら、裸で首輪をつけるのも厭わないぞ?」


「…………あたしもです。……破滅させてください」


「無理っす」


「何でだぞ?」


「…………何故です?」


「俺の推しが角夢杏子ちゃんだから」


 ここで二人を失うわけにはいかない。というか炎上させると色々と問題が起きかねない。そこには俺の訴訟案件も含むだろう。


「じゃあボクはどうすれば」


「…………あたしは……どうすれば」


 まぁうちに泊まるのはいいとして。とにかく俺への願望を薄めるしかなかろうよ。


 俺はタオルを取って、浴室へ向かう。


「…………一緒に」


「入ってきたら。全力で。嫌いになる。わかる? 古内院さん」


 俺はそう言いつけて、ルイと古内院さんを牽制する。


「…………わかりました。…………でも……一つ」


「聞こう」


「タマモと呼んでください」


「オーケィ。タマモ。俺にだって最低限のルールって奴は存在する」


「…………しっかり把握しました」


 では。


 そうして俺はシャワーを浴びる。これからルイと一緒に寝るだろうが、そこにタマモが参加しないわけもなく。これからどうしたものか。


「うーん」


 悩んでいると、髪を洗い終わった。そのまま体を洗って、浴室を出る。タオルで全身を拭って、そのタオルを肩にかけてリビングに戻る。


「わあ」


「…………はわわ」


 そうすると、二人は頬を赤らめて目を逸らした。


 何か?


「いや。風呂上がりのマアジがエッチすぎて」


「…………とてもではありませんが」


 そういうのは風呂上がりの女子に感じるものだと思っていたが、女子も男の風呂上りには似たようなことを想うらしい。


「で、結局タマモはどうするので?」


「…………ライバルがいる以上座視は出来ません」


「ボクのことだぞ?」


「…………他にいますか?」


 まぁいないだろうな。


「…………一緒に寝たり」


「しはするな」


 不眠症のルイには俺のアロマテラピーがいる。それ自体は俺が「本当にそうか?」とも思ってはいるのだが。


「…………でニャンニャン」


「それはしないぞ」


 そこは明確に否定できる。


「…………本当に?」


「もし妊娠でもしてみろ。お前らも俺も終わる」


 正確には俺は終わらないだろうが、俺の代わりに杏子ちゃんが終わる。


「…………あたしはいいのですが」


「俺が良くないから」


「ボクは子供欲しいけど……」


 安易にしていい事ではないことは分かるよな?


「じゃあタマモはどうするんだ?」


「…………マアジと一緒にいたいです」


「さいですか」


「…………ダメ……ですか?」


「まぁ基本的にダメだと言えないわけもなく」


 そもそもアイドルが男の一人部屋に来るなって話でもあり。


「マアジはいい匂いがするからね。ぐっすり眠るのには向いているぞ」


「…………一緒に寝て?」


「睡眠不足だったから」


 あと香りを調整できるしな。


「…………ズルい」


「タマモも一緒に寝るか?」


「…………いいので?」


「寝るだけならな。後のことは知らん」


 本気で知らん。


「…………では一緒に」


 そんなわけで、全員風呂に入った後、そういうことになった。


「…………これはオレンジの香り?」


「マアジは植物の香りを出すことが出来るの。これがまた快眠で」


 そんな説明をするルイは眠気でウトウトしている。


「いい匂い」


 そしてタマモも移ろう様に俺の体臭を嗅いでほんわかしていた。


 俺の意見は無視されたらしい。同じベッドで黒岩ルイと古内院タマモと寝ている。そのことに酷く性欲が掻き立てられ、俺はもうどうにも止まらない。っていうか、ここまでされれば相手方もOKではないのか。こうやって一緒のベッドで寝ているのに本番がNGということがあるのか。そこから俺には分からない。ただ、俺にはそれでもルイとタマモを抱くことだけは出来なかった。

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