第17話:修羅場と呼んでもいいものか?


 黒岩ルイ。光の反射で紫色に輝く黒髪の美少女で、俺は何度も繰り返していると思うがアイドルグループ『オメガターカイト』のセンター。アイドルとしてはトップオブトップで、今こうしている俺の部屋にいる以外は、仕事で忙殺されているらしい。そんな風には見えないのは多分俺に遠慮しているのだろう。実際にオメガターカイトの公式動画は週に一度は投稿されているし、そのほぼ全てにルイは出演している。というかルイが出ないと動画の視聴数が稼げないらしい。


 古内院タマモ。こっちも黒髪だが、反射する色はエメラルド。アイドルというにはあまりにバインボインな肢体を持っている少女で、ルイには劣るものの人気の高さは伺える。言ってしまえばあれだ。『Gカップ大勝利! 希望の未来へレディゴー!』いかん。色々と怒られる。ただそのグラビアアイドルとしての人気はルイにも迫るほど。アイドルとしてはルイに一歩及ばないが、女性としての魅力はおそらくルイより上。もちろん俺がチラチラとその肢体を見ているのもバレているだろう。結構あからさまというか。俺自身マズいと分かっていても彼女の胸元には視線が吸い込まれる。


「で、タマモが痴漢から助けてもらったと……だぞ」


「…………そう相成ります」


「好きになったぞ?」


「…………そう相成ります」


「チョロすぎない?」


「…………かもしれません」


 俺もそう思う。てへへ、と恥ずかしそうに笑う古内院さんはガチだ。


「それをマアジは認識してるの?」


「まぁ惚れているとは言われたな」


 これがノリというか、テンションに任せた勢いかもしれないとも。で、このテンションが続く限り、古内院さんが俺にアプローチするとも。


「認めたの?」


「いや。だって俺から却下するのも違わないか?」


 というか。なんでお前が不機嫌なんだよ。嫉妬か?


 むー、と唸るルイには悪いが、きっと嫉妬なんだろうな。こいつだって俺にキスをしたのだ。その意図するところを履き違えるほど俺も鈍感じゃない。というか、なんとも思ってない奴にキスするほどルイの唇は安くないだろう。


「で、ケーキ食べたぞ?」


「コトブキ屋のな」


「僕に帰ってくるなって言ったのは……」


「俺とお前の関係をバラすわけにもいかんだろ」


 今こうしてバレているのだが。


 紫水晶のように光るルイの黒髪と、エメラルドに光るタマモの黒髪。


「むー……」


 さてどう煮込んでやろうか、と睨みつけるルイ。


「…………マアジさん」


 その睨みつける先である俺に抱き着く古内院さん。俺の肘に柔らかいものが当たって、一瞬で意識が沸騰する。まるで圧力が波濤のように襲ってくる。それがおっぱいだと知ったとき俺が思ったことはさほど多くない。


「…………好き」


「そ、そうですか」


 俺から言えることはそう多くない。そもそもだが、俺とこうしていて二人は問題じゃないのか?


「とりあえず飯でも作るか」


 俺が提案をして、その様に事態は推移する。


「逃がさないからね……」


 ぷっくーと頬を膨らませて、不機嫌そうルイはそう言う。


「あーはいはい」


 で、俺は今日のご飯を作り出す。とは言っても手作りではないハンバーグと、米と味噌汁とサラダ程度のものだが。


「いただきまーす!」


 こういう時はテンション上がるのな。俺の用意した料理を食べてくれるというのは嬉しい事でもある。


「…………それで……ルイは……マアジに何で惚れたの?」


「メス奴隷にしてくれるって言ったから」


 言ってねーよ。


「…………ルイもメス奴隷に」


 いや。その話題止めない?


「ということはタマモもメス奴隷に?」


「…………と、提案しているのですが」


 何故俺が了承すると思った。


「だって普通アイドルの弱み握ったら脅して性奴隷にするよ?」


 しねーよ。


「…………あたしは……いいですよ?」


 俺が良くないから。


「という誠実さも好き」


「…………以下同文」


 単なるヘタレなだけなんだが。とにかくこの二人が問題を起こすと、オメガターカイトの信用性が急落する。それは角夢杏子ちゃんのアイドル性にも直結しかねない。


「…………あたしを推してください」


「無理」


「…………おっぱい揉んでいいですから」


「……………………………………………………マジで?」


 後から「やっぱダメ」は通じんぞ。


「…………マアジさんにならいいです」


 やっほい! 大勝利。


「マアジ~? そういう挑発に乗らないぞ」


「でもGカップのおっぱいだぞ?」


「ボクだってDくらいあるんだけど」


「連邦のおっぱいは化け物か!」


「そういうネタ発言は慎んで」


 自重しまーす。


「で、古内院さんとしてはこの状況はどうなさるので?」


「…………どうって……言うと?」


「ルイと俺の関係……とか?」


「…………いいんじゃないですか?」


 えーと。それはセーフということで?


「…………ただ……あたしも混ぜてもらいます」


 それって……。


「…………好きです。……マアジさん。……狂おしいほどに……愛しております」


 だから俺を糾弾はしない。けれどもそれによって俺を求める心はブレない。古内院さんは俺が好きで、そのためなら手段を選ばない。そこには黒岩ルイとのスキャンダルも含まれており、ルイと付き合うなら自分とも付き合え。


「ということで?」


「…………だいたい合ってます」


 その場合、俺の立場というか法律的な立ち位置ってどこになるので?


 俺がそう思っていると、ムギュッと俺の頭部を古内院さんが抱きしめる。頭部に胸が当たって幸せ絶頂。ムニュンフニュンとおっぱいの圧力が俺を襲う。ああー。ダメになる。


「…………あたしはいかれてます。……マアジさんが好きだということも。……そのライバルであるルイがマアジさんを好きだということも。……全てが性的な興奮に繋がる」


 つまりルイが俺とニャンニャンしていることさえ、彼女の興奮に繋がると。


「…………おっぱいを揉んでください……マアジ。……あなたになら……幾らでも揉ませて差し上げる」


 とは言われても。

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