第16話
「あ「今俺が許可しているのは『仰せのままに』か『ワン』だけだ。それ以外の言動は挙手をしろ」
呆気にとられつつも一先ずこの男は特に私を殺そうとか脅して金銭を盗もうとか、そういう気はないらしい…?と理解。
挙手。
「きり」
「あ…貴方はだっ、
「答える義理はねーな」
「……」
段々解ってきたけれどこの男、外見と言動に随分と差があるな。
外見は目を見張る程綺麗なのに…。
挙手(二度目)。
「きり」
「此処、私の家ですが」
「あ?」
思い切り眉間に皺を寄せられて怯むと同時に、毛穴も目視で確認できない陶器肌が間近に寄せられた。
「おまえこの家に幾ら払ってんだよ」
「3万円です」
「この立地での21階がそれで借りられると本気で信じたのか」
「信じました」
「馬鹿はしね」
えーーーー!?
「つまり、どういう」
「挙手」
堪らず続きが気になって挙手すると、間髪入れずに「眠い。次で最後」と返ってきてリアルにあと50個は質問しないと紐解けないのにという思いと目の前で大きな眸をとろんとさせ始める人物への謎の焦りとあとひとつ、どうしようというやっぱり焦りが渦巻いた結果。
「はい!はいはいはいはい!ここ!?ここで寝るの!まって寝ないで」
どうでもいい質問をしてしまって戦慄する程後悔した。
「ああ、ひとつだけ教えてやってもいい。俺様は女に興味がないとはいえ人間の精気を得て生き存えている妖怪だ。故に人肌のない所でこの目を閉じるわけにはいかねぇ。閉じたらしぬ。万が一におまえが何処かに行こうとするものなら俺様がおまえの手足を切り刻んで千切ってでも人肌を手に入れる。それか犯す。いいな」
初めましてから一週間程だっただろうか。
初めて長々と喋ってくれたのは理解し難い妖怪の話で、何も得られてない私に謎のドヤァ顔でお話フィニッシュを迎えた男は私のベッドの上で胡座をかいたまま頬杖をついて、長い長い睫毛を見せながらすやすや寝始めた。
与えられた選択肢、怖過ぎない?
それからは目の前で手を振ってみてもびくともしなかった。
怖くて触りはしなかったが3分待ってみて本当に動かなかった。段々暗示にかかったように本物の妖怪に思えてきた。疲れ果てて、眠い。というかこの妖怪靴履いたままだ。有り得ない。土足文化出身か?
どうやら本当に精気を吸われたらしい私は妖怪様の怒りを買わぬようそうっとそうっと唯一思い出した諭吉先輩を持ってきてお供えして、電気を点けたまま寝た。
その日の夜はこの世に未練を残した綺麗なバスケットボール選手と試合する夢は見なかった。
これぞ不戦勝。めでたしめでたしだ。
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