第13話
「どうした」
は。
俯きがちな端正な顔立ちは上目遣いでそう口にした。
薄暗い玄関に立ったまま、どこか偉そうな態度に張り詰めていた気が抜け落ちてしまいそうになる。どうしたって言った? 今。
「きり」
「!!」
低音になって耳に入ってきたのは、私の、名だ。
「きーり」
再度確かめるように呼ばれる。しかし、私は知らない。何度記憶を辿っても出てこない。
背筋が凍りつく。
「おいで」
「ひ、他人の家に勝手に入って何を」
「来ないなら行くけど」
それまでの気も抜けてしまうような空気から一変、更に低く影を落とした声色に息を呑んだ。恐怖に指先が震え始めた私はそれを隠すように止むを得ず一歩、一歩、距離を縮めていく。
「ふ」
耐え切れない沈黙を破った。背丈も大きいことが判った男はじっとこちらを見たままで獲物を待つ猛獣のように見えて尚更怖かった。
「不審者ですよね通報していいですか」
「おまえは不審者だと思う相手にその都度通報確認をとるのか」
ヒェェ感情迷子だけれどどうしてだろう凄い腹立つぞ!?
強気に出ても変わらない冷淡な声色は2m程先に迫っていた。
構えたままのコップが震える。目を離さないように見上げていると、それを見守っていた彼の濃い影、に。
「ヒ」
あっという間に覆われて、きつく目を閉じた。
「…成程。心配になる程隙だらけだな」
「っ、ふ、不審「するか、通報」
左側、高い位置につかれた腕。
男の右手は私が両手で持っていたコップを軽く押さえている。
「す、ンっ…、ッ!?」
反抗した矢先、男は突然噛み付くように、私の唇に柔らかい自身のそれを重ねた。
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