第12話

「わ」



ひ、にも似た音が喉から勝手に溢れる。持っていたコップを咄嗟に構えた。そう映ってしまうものなのか嫌という程ゆっくりと引かれていくドアの隙間から覗いた顔は——。



「う…そ」






“例の”男。





どうして。


入れた?鍵閉め忘れた?何故、入って来たの。どうして此処なの。


貴方は一体、誰、



不審者と叫ぼうとしたがいやに冷静な脳は押し寄せる疑問の方に夢中だった。それでも自然と。


「ふし、しゃ」



本当に怖いときって。動けない。


でも私とは対照的に不審者は初めて遭遇した時とも二度目に遭遇した時とも違う様子だった。



私に不審者と呼ばれた彼はそれが聞こえたのか否か、開いたドアの隙間からやっとゆっくり動いたところだった。



「は、入らないで!!」



必死に叫ぶ。


コップを、包丁でそうするように両手で持ち、腹の前で構えた。



しかしそれも空しくドアは無機質な音を立てて彼の後ろで閉ざされてしまった。どうしよう、どうしようどうしようどうしよう

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