第11話
「じゃ私地下鉄だから...心未、善くん、今日はありがとう」
「うんまたね。きり本当やばいやつには気を付けて!」
「気を「付けようがないと思うけど」
「……」
「戸締りだけはちゃんとしなさい。オートロックとか気休めよ。その気になったら開けられるからね」
「怖!?」
柔らかく怖いことを言うふたり。「改札までありがとう」と付け足しているが虚な笑いしか出て来ない。
「が、頑張ります? 善くんは兎も角、心未も何かあったらいつでも…言って…ね…」
近付いてきた心未はまずは自分の心配をしろ馬鹿め、と謎の口調で力強く私の手を握り、愛らしい笑みを浮かべ、離した手を小さく振りながら善くんと遠ざかって行った。
見送りが済み、私も帰路につく。
最寄り駅を出てぼうっと新居へ向かっていると、見慣れないおでん屋が出ていて思わず眉を顰めた。
屋台だ…。
こんな、都内の駅前に。
暖簾の下に見えた姿は一人のようだが、中からは何やら騒ぎ立てる声が外まで聞こえ漏れていた。
皆色々あるよなぁと素知らぬ人に同情しつつも歩みを止める事はなく、ただただまだ夜は肌寒いことを感じながら明日も仕事だし帰って早く眠れる短いスケジュールを何も知らない私は頭の中で組み立てた。
「ただいまー」
玄関に入って真っ直ぐリビングまでの廊下を進むと、改めて良い家だなぁとにやにやしてしまう。本当にこの家賃でいいのか。社宅って。
凄い。素晴らしい。
鞄だけ置いて真っ先に手洗いうがい。
二度目のうがいをしている最中、玄関の方から跳ね上がる程の物音がした。
まだテレビもつけていない無音の室内に響いた音は、決して幻聴ではないだろう。
私は危うく飲み込みそうになった水を吐き出し急いで玄関の方を覗く。
「えっ...」
コップを持ったまま恐怖心を取り消すよう声を発して間も無く、閉めた筈の鍵が開いていたことを確認し、更にはその下のドアノブが下へと沈む瞬間を捉えてしまった。
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