第8話
「あ の」
切ない関係でも何でもないが忘れたくても忘れられなかったその横顔…。
うちの部署から少し出た所の椅子に腰掛け長い御御足を組み誰かと話していたが、一刻も早く現行犯逮捕という気持ちを持った私の頭の中にはお話中すみませんクラスの声掛けさえ浮かんで来なかった。
「あ?」
いっっやぁぁ〜〜な第一声をどうも有難う。
予想していなかった返答に、会話を続けることよりもまさか人違いではないのかという考えが過ぎって立ち尽くす。
しかし私の本能が昨日見たのはこいつだ!!と言っている。間違いない。
この人は、あの人。オバケ説は立証されなかった。
不審者説が有効だ。
言葉を続けない私を不思議に思ったのか隣にいた方が僅かに首を傾げたのが映った。
私は震える唇をはくはく、何か、何か言わなきゃと思ったが固まったまま力の抜けた指先からチョコのパイが床に落ちてしまった。
それにも気付かなかったが。
誰かが、隣の方を呼んだらしい。男性は一声掛けて席を立ってしまった。
すみません。
目の前で私を怪訝に見上げていた男は席を立ち落としていたチョコのパイを拾った。
「おまえ…」
足元から聞こえてきた声に、流石に視線を落として彼が拾ってくれたことに気が付く。
「あ、ありがとうございま」
「俺の子を孕め」
はっ?
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