第7話

その日の夜はこの世に未練を残した綺麗なバスケットボール選手と試合して敗北するという悪夢を見たが、ここ数年長くなった気がするゴールデンウィークも明け待ちに待った出勤の日は来た。


出勤は憂鬱でも何でもない。連休中の出勤はなく、引越しも手伝って帰省することもなく。


あったのは恐怖体験。



そう、私は早く外の世界に出たかった。


誰かに話したら頭の中に焼き付くし、考えれば考える程左に同じくなのに独りでいれば思い出してしまう。唯一出逢った住人である百目鬼上司はミジンコの数百倍役に立たなかった。




「前坂さん、何か更に痩せました?」



五十子いらこくん。女性は『痩せた?』と声を掛けられればいつどんな時でもヤッタ!と両手を上げて喜ぶものではないのよ」


「窶れました?」


「ヤッタ! 欲しかったのはこれか?」



手が空いているのか私の席まで立ち寄った彼は素直に謝った。



そんな彼の肩越しに丁度入ってきた百目鬼さんを何気なく見る。



そして更にその奥にー





幻かと、思った。





「前坂さん?」



目を見開き静止する遠くで後輩の声がする。



スローモーション掛かった視界の中、自分の目を疑ったが、逸らすわけにはいかなかった。



目を逸らしてしまえば負け。また“次の瞬間には居ない”かもしれない存在が、今。




「え、どうし」



立ち上がった私はこちらに気付いて何か喋った百目鬼氏をも押し除け、一直線に最初に見た横顔へと向かった。




「う、そ なんで…」





今自分を褒めることができるとすれば、手にはまたどこかで会ったらと持ち歩いていたチョコのパイを持っていたことだ。

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