第6話

「おい...前坂? どうした? なぁ...どうしたんだ言え! マエサカーー!!」



「何か...解らない...不審者...…いやもしかしたらオバケ...オバケかもしれない。あと百目鬼さんマジでやめてくださいそういうの」



現場に取り残された私を見つけた上司は状況説明を聞くも「オバケだぁ?」と全く頼りにならない反応を示した。

信じてない。信じてないのだ。信じてないことをこんなにも全身で表せるものだったのか人間は。


というか人間なのか百目鬼さん。



先程まで空だった買い物カゴに大量に入れられた酒・肴が部下の個人情報を敢えて大声で周囲に知らしめたこの人間(仮)への不信感を煽った。



「おまえさぁ...財布持って来るの面倒だからって万札をそのままカゴに入れるのはどうかと思うよ。まさか、財布持ってねぇの?」



何だコイツ。違うよ。



「しかも唯一の購入品がチョコのお菓子って。何これパイ?料理ぐらいしろよジョシリョクねぇな」



違うって。黙れよ。覚えたての言葉みたく女子力を語るな。




「違う違う違う違うんだ...」



私はそのまま、アッ オイ マエサカ などと呼び掛ける直属の上司を無視してその場から立ち去った。





・・・





その日の夜、自費で購入したチョコのパイをただただ見つめていた。



夕飯は買い逃した。お腹は鳴っているがそれどころじゃなかった。帰ってくるなり電気を点けて真っ先にカーテンをきっちり閉めた。いつもは目的なしにつけることのないテレビも早々つけた。加えて音楽も鳴らした。無理にダンスしながら洗面所に行って手洗いうがいしていたら、そうだ身体を温めようという気になってお風呂を沸かした。沸くまでの時間、それが今だ。



「まぁ、あのくらいの変な人ってたまにいるよね...ばっちり目が合ったけど。多分百目鬼さんがもう少し早く来てたら、百目鬼さんにも見えたに決まってるよね」




顔上げたらそこには居なかったけど。



急に怖さが倍増した私はまだ呼び出されてもいない張ってもいないお風呂に入って、短い夜を過ごした。

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