スピンオフ 裏編ノート②

 19話①

 

 今日は四熊と会う日だ。前回会った時は、お面をかぶっていたから顔までは見えなかったけど、今回は公衆の面前だ。お面を付けてくることはできないだろう。

 流石の本人も人がいる場所であのお面は付けられないだろう。

 

「雄太!」

 

「君の知っている雄太君じゃないよ。顔を借りているだけ」

 

 そんなお面もありなのか。


 19話②


 三好が検証したことを全部聞いてみてもいいだろうか。本人の口から聞けたなら、三好がしていたことは確実になる。三好のために俺ができることは裏付けを取ることだけだ。


「正解だよ。あの子が書いていることは全部正しいよ。ノートに躍起になって凄いよね」


 言ってくれるんかい。

 

 


 20話①


 うちの学校のノート所持者、泉以外知らない。名前は聞いたことあるくらいだ。後輩とか特に接点ないのに無理ゲーじゃんか。しかも女子。俺、頭いいやつ苦手なんだよな。


「東さん」


「はーい」


 いや、斜め後ろにいるんかい。

 

 20話②

 

 みんな三好にノートを奪われたと言っていた。あの何を考えているかわからない顔で、どんな恐ろしいことをしているんだ。それに普通奪うか。

 うん。やっぱり女って怖いな。

 

 

 

 21話

 

 これが三好が集めた情報か。すごいな。まるで探偵じゃないか。よくぞここまでの人を集めたな。合計で20人分か。並大抵の努力じゃここまではできないよな。それにしても死人が多すぎるな。

 うん? 何か紙が挟まってあるな。

 うわっ。こっちにも文字多数じゃないか。俺小説とか苦手だから、見るだけで嫌になるな。まあ、三好が書き残しものなら、今後のノートについてのこととか書かれていそうだから読めるところまでは読もうか。

 ……遺書ならもう少しマシなの遺してくれよ。




 22話

 

 美化委員楽でいいけど、1つだけ嫌なことがある。それは、美化委員だけは、楽だから1人だというところ。まあ、する仕事としては、クラスの掲示物の張り替えとか、年に1回の美化活動の説明だけだからいいけど。

 

 

 

 23話

 

「神山君。りっちゃんに会う前に大事な話がある」

 

 店主の言葉を固唾を飲んで見守った。

 

「うちの店は隠れられる場所が厨房かトイレしかない。そして、厨房はりっちゃんが通るかもしれないから隠れられない。ということで、神山君はトイレで待機をお願いします」

 

 

 

 24話

 

 ……どうしよう。小学生以来の女子の部屋だ。とりあえず深呼吸をして空気を堪能……しちゃダメだから深呼吸禁止。もしかして、息するのもダメなのか。

 心が落ち着かないのは心臓を抑えてどうにかしよう。心停止はしない程度に。

 

 

 

 25話

 

 姉と仲直りがしたいとか、意外と子供みたいなところがあるんだな。かわいいじゃないか。

 あ、これは、ロリコンとかじゃなくて、人間として……は違うか。うん、とりあえず、言葉のあやだ。日本語難しい。

 

 

 

 26話①

 

(まさか山内さんとのデート第2弾が予定されることがあるなんて、俺明日死んでしまうのか。山内さんとか、海辺ノート関係じゃなくて、生きていく上での運を全て使い果たして死んでしまうのか。

 ああ、楽しみだ。山内さんとのデート。1週間後だけど、今から服を用意しておこう)

 

 今回のことがデートではないことを知ったのは、『Shaun』に着いてからだった。


 26話②


 (……また手紙だ。誰だよ本当に、もうやめてくれよ。手紙が入っている時は碌なことがないから。本当勘弁してほしいな)


 そう思いつつも、内心はラブレターかなと喜んでいる勇人であった。

 

 

 

 27話

 

 何だったんだ三好のやつ。何を勘違いしているんだ。ああ、怖かった。本気まじで殺されるかと思った。怖かった、

 緊張がほぐれて何だかトイレがしたくなってしまった。授業まで時間がないのに。でも、我慢できるものでもない。結構膀胱がピンチだ。この歳で漏らしたくはない。

 

 

 

 28話

 

「うん。また明日」

 

 三好を残して俺は店を出た。

 やばいやばい早く逃げよう。あの物陰から見ていた姿、絶対三好妹だよな。捕まる前に、逃げないと。

 

「神山さん?」

 

「はい!」

 

「姉と何を話していたのですか?」

 

「ただの世間話です……」

 

 何でだ。俺の方が早いはずなのに。何で、三好妹に先回りされている。

 

「神山さんは逃げ切れると思ったみたいですが、実はここら辺の地形は複雑で、私の家からだと、裏道を通った方が早いのですよ」

 

 それは知らなかったな……。流石地元民だ。


 この後俺は、三好妹に「まだなのか」と延々と言われるのだった。

 

 

 

 29話①

 

 今日は山内さんと何時まで一緒にいられるのだろう。夕方、いや、夜まで一緒にいたいな。

 あ、これは下心じゃなくて、一緒に遊べる時間を長く過ごしたいだけだから。遊びと言えば響きは良くないけど、下心じゃなくて、少年のような純粋な心しか持ってないから。


 29話②


 何この座りにくい席。どっち選んでも地獄しか見えない。想像してみよう。三好の隣に座る……「あら、私の隣は座れなの? 私、神山君にたくさん協力してあげたわよね」。山内さんなら言いかねない。次は山内さんの隣……「神山君。そんな女の隣になんて座らないでこっちに来なよ。また殺されるかもよ」。めっちゃ三好が言いそうだ。やっぱりどっちでも地獄じゃないか。もういっそのこと立っていようかな。空いている席窓際だし。

 

 

 

 30話

 

「山内さん。少し話があるんだけどいいかな?」

 

「何々、2人ってやっぱりそんな仲なの?」

 

「違うから」

 

 否定しても三好は俺の言葉を信じていないみたいで、顔がずっとにやけている。

 

「まあ、ごゆっくり。でもこの辺泊まれる場所ないから程々にね」

 

「だから違うから……」

 

 

 

 31話①

 

(あ。神山さんからメッセージだ。『今すぐお店の前まで来い。さもないと姉の命はない』! ど、どういうことですか神山さん。私と姉の仲を取り持ってくれるのではなかったのですか! と、とりあえず、店の前ってことは家の前にいるから様子だけでも見に行こうか)


 31話②


 俺の目がおかしいのだろうか。明確な主従関係が気づき上がった気がする。

 それはそうと、道路に正座はやめような。あと、山内さんも止めてね。俺まで関係者みたいに見えるから。

 

 

 

 32話①

 

 ああ、風がぬるいな。広い道路が広がって、この先は県内随一の工業地帯がある。大型のトラックがよく通る。排気ガスも温いな。

 

「ゲホゲホッ」

 

 うん。排気ガスばかり浴びるのは身体に悪そうだ。中……入りたくないけど、入るしかないな。

 

 32話②


 (あの天井の模様って全部で何個あるのかな。1枚の大きさが縦横約1メートルくらい。小さいのも大きいのもあるから1000か2000個くらいはあるのかな。どうせ暇だから数えてみよう)


 100を超えた辺りで数えるのに飽きてしまって、早々に数えるのを終える勇人であった。

 


 

 33話①


 「これ、新しく店のメニューにしようか考えているケーキなんだ。ぜひ感想を聞かせてほしいよ」


 店主が持ってきたのは、美味しそうなシフォンケーキだ。


「これよくうちで食べているやつじゃん」


 それは言ってあげないで。


 33話②

 

 さっきの子何だったんだ。三好の弟としか思えないけど、最近の小学生は進んでいるな。ランドセルで遊びに行くとか、経験したことないな……何がどうなって、ランドセルで遊ぼうってなったんだ。かの有名なリアルなおままごとでもしているのか。

 

 

 

 34話①

 

 はあー、暇だ。何で俺は外に出されてそのままにされているんだ。それと、これは三好の家に対しての文句になるのだが、何故、廊下に窓がない。おかげで昼なのに電気がないと夜のようじゃないか。階段下が怖いから早くしてくれ。今にも幽霊が出てきそうだ。

 

 34話②

 

 「所有者以外が触ってもノートはただのノート。どうして神山君だけはノート文字が見えるのかしら」


「さあ、下心があるからじゃない?」


 やめて! そんなのないからやめて!


「最低」


 俺じゃないでしょ⁉︎

 


 35話①


 山内さんに首を絞められたことによって、背中に感じていた山内さんの柔らかさを忘れてしまった。くそー。何でもっと脳裏に焼き付けないかな。一生忘れないくらい強く。

 でも、そこまで時間をかけて脳裏に焼き付けようとしたら、そのまま逝っていたかも……。



 35話②

 

 三好妹案外やるな。顔にノートをぶつけるとか。さぞ痛かっただろうな三好。はあー。俺ノート触っても電気こなくてよかった。もし、俺も単に所有者だったら、絶対三好に道連れにされていた。危なっ。


 

 

 36話

 

「神山君。話はまだ終わってないよ」

 

 ここは先手必勝。俺が部活で培ってきたあの必殺技を見せる時が来たか。

 

「すいませんでした!」

 

 速攻土下座。これぞ俺の必殺技。決まったら、文句を言える奴はいない。

 

「神山君?」

 

「はい」

 

「『すいません』じゃなくて『すみません』ね。そこんとこ間違えないようにね」

 

 そんなバカな。この技は絶対決まる技なのに。日本語って難しいな。

 

「それと……」

 

 山内さんはそう言いながら、俺の背中を踏んづけた。靴を履かず。

 や、山内さん。それは俺にとってはご褒美です。いや、違う。新たな扉を開けるな俺。落ち着け、背中で山内さんの足裏を感じるな。心を無にして。

 

「私たちスカートだから、急に座らないでね」

 

「はい失礼しました」

 

 ……山内さん力強い。あと背中痛い。

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海辺ノート 倉木元貴 @krkmttk-0715

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