第34話

 俺はいつまで廊下で待っていればいいんだろうか。せめて、さっきの子、もう1度来てくれないかな。暇だし、帰りたい。とりあえず、することがなくなればスマホでも触ろう。

 待つこと5分。俺はようやく三好の部屋に招かれた。

 長かった。こんなに長い5分は久しぶりだ。アディショナルタイムより長いぞ。

 

「どうぞ神山君」

 

 三好に招かれて三好の部屋に入った俺は、三好がノートをばら撒いた前に連れてこられた。背後の扉の前には、山内さんがなぜか立って。

 

「みんなで話し合った結果だけど、神山君、ノート片付けてくれない?」

 

 俺は生贄にされるそうだ。

 みんな俺への仕打ち酷くない。俺、海辺かいへんノートを持っていなければ、単に三好に巻き込まれた身なんだけど。勝手にノートを拾わされて、2回も殺されかけた人なんだけど。完全な被害者なんだよ。

 山内さんが俺の背後を取ったのは、俺が逃げないようにか。そう言うところで頭を使わなくてもいいから、ノートをどうやって片付けるかを考えてよ。俺だって電気を浴びに行くのなんて嫌だよ。あれ痛いから。

 

「待ってよ。どうしてそうなったの?」

 

「醜い時間稼ぎなんてしないでさっさと片付けなさい」

 

 ヤジを飛ばす山内さん。

 俺も電気を喰らいながらでも、山内さんに向けてノートを投げてやろうか。三好妹は鞄をぶつけることを失敗していたけど、この距離と1冊のノートだけなら、山内さんの反射神経を持ってしても避けられないだろう。

 と言うか山内さん人変わりすぎじゃない。ここまで酷い人だとは思わなかったよ。天使で女神でマドンナの山内さんはどこいった。

 

「そうだ。三好、絶縁手袋あるって言ってなかった?」

 

「うん。あるけど。大して変わらないよ。ノートには直接触るのがダメみたいだから」

 

 じゃあ、なんでノートをばら撒いた。自慢するために人を犠牲にするな。

 三好から始めて、三好妹、山内さんと順番に顔を見ていく。

 ……俺がするしかないのか。女子にそんなこと任せられないよな。ここは男として俺が……でも電気怖いんだよ。あれ結構痛いから。ため息とともに深呼吸をして、息を整えている時にあることに気がついた。

 俺、そういえば、山内さんのノート触っていたよな。今日だって山内さんに普通にノートを返したし、三好にだってノートを返した。どちらかのノートの所有者になっているのなら、電気が来てもおかしくなかった。もしかして、俺電気来ないのじゃね。でも、その結果をこの場で晒してしまうのは少し勿体ない気がする。

 そもそも俺元から所有者じゃないのにノートに触れることができるのなんでだ。そういえば、三好が殺される前に、俺がノートに触れるみたいなことをわかったら、めっちゃ興奮していたよな。その時のことを三好が覚えているのなら、もしかして、触れることバレてんじゃね。でも、山内さんの時にはノートに触れたせいで所有者ってことがバレたんだから、電気が来るってことを知っているはず。

 もう、諦めるしかない。もし、電気が来なかったら、痛がるふりでもした方がいいな。まあ、演技なんてできないけど。

 本当は触りたくないけど、指一本でノートに触れる。思ったとおり電気は来なかった。

 山内さんのノートを拾った時にも指一本で触れて、電気が来なかった時があった。あの時は普通に触れた今回も触れそうだ。

 

「はあーー」

 

「早く片付けてくれない」

 

 山内さんは相変わらずヤジを飛ばす。

 

「わかったから」

 

 意を決してノートを掴む。多少の覚悟はしていたけど電気は来なかった。

 このまま山内さんの方に飛ばしてやろうか。

 

「やっぱりそうか」

 

「三好の言った通りね」

 

 示し合わせるかのように言う2人。

 なんの話し合いをしていたんだ。

 

「神山君はノートの所有者じゃなくなったから、触ったところで何も起きないんだよ」

 

 だったら最初からそう言ってくれればいいのに。そういえば、2回目に三好の海辺ノートを触った時も何も起きなかったな。

 俺ずっと騙されていたのか。

 

「神山君みたいな人って他にもいるのかしら」

 

「さあね。私が出会った限りだと神山君だけだね」

 

 さっきから一体なんの話をしているんだ。お願いだから俺も混ぜて。今までいろいろなことに協力をしてきたんだから、仲間はずれにはしないで。泣いちゃうから。

 

「神山さん。私のノート見てください」

 

 三好妹にノートを渡されて、中身を見る。

 純粋だと思っていた三好妹のノートには、1ページごとに不幸が訪れるようなことが書かれていた。

 ノートを1回しか使っていないって嘘だったのか。俺、割と本気で信じていたんだぞ。

 もうやだ。女子怖い。

 

「見えているみたいだね」

 

「どうなっているのかしら」

 

 2人の言っている意味がわからない俺は、混乱しすぎて年下の三好妹に助けを求めた。

 

「えっと、ですから。神山さんは、ノートの所有者じゃないので、普通なら私のノートを見ても文字が見えないんです。ですが、神山さんは見えているのですよね。私が書いている文字を」

 

 そうだった。何も違和感なく当たり前だと思っていたけど、普通の人には見えないんだった。

 

「じゃあ、なんで俺見えるの?」

 

「そんなこと訊かれてもわからないわよ。私たちノートを持っているだけだから」

 

 俺山内さんのこと結構手伝ったんだから、俺のことも手伝ってくれよ。めっちゃ気になるんだけど。

 

「ちなみに他の人のノートも見えるの?」

 

 三好は三好で新たな実験動物を手に入れたみたいで、興奮していた。

 三好、頼むから俺をそんな目で見ないで。俺同じ人間だから。

 俺こんなに巻き込まれているのに、ぼっちみたいだ。

 

「神山君とりあえず、桃色のノートを開けて見てよ」

 

 もうヤダ。女子怖い。

 俺は心の中で涙を流しながら、ピンク色のノートを開いた。

 

「そっちじゃないけど、まあいいや」

 

 似た色があるんだから仕方ないだろ。桃色ってピンクじゃないの。知らないよそんなこと。そういえば、山内さんのノートもピンク色だった。ピンクは一体何色あるんだ。

 

『1204年第4回十字軍はエルサレムを奪還し、ムスリル王朝を滅ぼした。』

 

 俺視点のピンク色のノートに書かれていたことだ。歴史を改変した犯人こいつだったのか。

 所持者の人には悪いけど、俺がテストで点を取れるように破らせてもらう。

 

「あー。なんで破るの神山君」

 

「俺の……進級のために」

 

 それにしても誰だったんだこのノートの所有者は。多分ろくなやつではないな。

 

「泉ちゃんに言いつけてやろう」

 

 泉お前だったのか。

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