第33話
店主の意向で、ケーキと紅茶をご馳走になった俺たちは、三好妹のノートを無効化するべく、三好の部屋に足を運んでいた。
俺まで立ち入る必要はあったのか疑問だけど、見届け人を任されたのだから仕方ない。それ以上に、人生2回目の女子の部屋……。俺本当に入ってもよかったんだろうか。
……まあ、知ってたけど。やっぱり三好の部屋なんだ。
「ノートの無効化ってどうやってするの?」
入室1番に山内さんが三好に訊く。
俺もそれは疑問だ。三好の2枚目のノートにも方法は書いていなかったから。東さんも何をされたのかわからないって言っていたし。そんな方法があるのなら、1番に製作者に止められそうだけど。あの人ならやりかねない。
「無効化って言うよりは、このノートが使えなくなるってこと。私が試した限りでは、無効化しても所有権はあるみたいだから、新たな所有者は生み出していないはず」
「それで、どうやって無効化するの?」
「ノートを無効化するには、六花の協力が必要なんだ」
「私? なんでもするよ」
三好の妹人変わりすぎだろ。この間、俺この場所で殺されかけたのに。
「ありがとう。それじゃあ、無効化の手順だけど、六花が最後のページの最後の行に未来を書けば終わり。それ以前のページは使えないから、ノートも必然的に使えなくなるってこと。やることは簡単だけど、ノートの所有者以外にはどうしようもないんだよ」
うん? あまり理解が追いついていないけど、ノートの最後のページの最後に書くことによって、それよりも前のページが使えなくなって、さらには最後の行に書くから、これから書くスペースもない。それで、ノートが使えなくなるってこと。かな?
よくこんな抜け道を見つけたよ。この探究心を他に向けたなら、もっと優秀になりそうだ。
それよりも三好が命を狙われないか心配だ。
「それって、ノートが使い終わったってことになるの?」
「多分だけどね」
「私も使い切るのが、ノートを手放すには1番早いんじゃないかなって思っていたから、これで、後日ノートが届かなければ、ノートを無効化できたかもしれないってことになるわね」
「うん。まだ、その後の実験をしていないから、詳しいことはわからないけどね。六花もごめんね。実験の対象にして」
「ううん。私はなんでもいいよ。お姉ちゃんともまた話ができて嬉しいよ」
「六花……」
三好は三好妹を抱きしめる。
俺は一体何を見せられているんだ。本当に帰ったらよかった。
「これでノートが1冊使えなくなったね。わたしたちのと合わせて、3冊は集まったね」
3冊という言葉に違和感しかなかった俺。考えていると、思い出す。三好にノートを取られたと言っていた存在を。
「ああ、そのことだけど」
三好は、部屋の押し入れを開けて、奥の方にしまってあった大きめの旅行鞄を取り出した。鞄のを開けると、中身をひっくり返し、中から8冊のノートが出てきた。
「実はうちの学校にいるノート所有者の、ほとんどからノートを預かっているんだ」
あれ、俺が聞いた話と違うな。確か……。
そんな視線を向けていたことがバレて、三好には、何も言うなと言わんばかりに睨まれていた。時々首を横に振って。
はいはい。俺は何も言いません。いずれ山内さんにバレるだろうに。
「すごいわね。どうやって集めたの?」
「私たちが他人のノートに触れば、電気が来るけど、電気だったら防げるんではと思って、絶縁系の手袋はダメでも、鞄に入れてもらえば電気はこないってことがわかったんだ」
「なるほどね。間接的だったら電気は来ないってことか。そこまで試す自信はないわ」
うまいこと
相変わらず睨んでいるな。そんな目をしなくても俺からは言わないって。6人のうちの誰かは言うと思うけど。
「お姉ちゃんが8冊持っていると言うことは、私のも含めて9冊が無効。お姉ちゃんと陽菜さんのノートが現役。全部合わせて11冊もあるってこと」
11冊か……。会長の話では全部で50冊あるみたいだから、残り、39冊。気の遠くなる作業だな。何人か死んでしまったらしいし、新たな所有者になればまた1から探さないといけない。
これ、俺らが在学中に終わることはできるのか。
「ところでさ……」
山内さんが少し困ったかのような顔を浮かべる。
「何?」
何が起きているのか理解していない三好は、至って普通の顔を浮かべる。俺も同じく。
「このノートどうやって片付けるの?」
どうやってって? 普通に片付ければ……あ、そうか。他人所有のノートは、触れば電気が走るのか。
ようやくことの重大さに気づいた三好は、呆然と立ち尽くしていた。
「……ど、どうしよう」
「本当に何も考えてなかったの?」
三好は無言で何度も頷く。
「お姉ちゃん私がやってみるよ。ノートを破棄できているのか確認にもなるし」
「それはだめ。六花にそんな危ないこと任せられない。それに、神山君もいるんだから」
俺がいたら何だって言うんだ。そもそも、俺呼ばれた身なんだけど。
「大丈夫だよ。私に任せて」
「だめ。痛がっている六花を見て、神山君が発情したらどうするんだよ」
……そんなことは絶対に起きないから安心して。俺もそこまでの男じゃないから。
三好がそう言ったせいで、俺は山内さんと三好妹に睨むような目で見られていた。
「……最低」
俺言ってないよね。三好が勝手に言っていることだよね。三好の冗談だから真に受けないで。言いたいけど、言えない。山内さんの圧が怖い。
違う、山内さんの目は、睨んでいるんじゃない。あれはゴミを見る時の目だ。
「せめて神山君がいないところじゃないと」
山内さんは相変わらずのゴミを見るような目で、外に出ろと。俺に視線を送ってくる。
外に出るのはいいけど、それだったら最初から呼ばないでくれよ。これ、勝手に帰ったらそれはそれで怒られるのかな。
今は、じっとしておこう。山内さん怒ったら怖いから。
部屋の外に出た俺を待ち受けていたのは、ランドセルを背負った男の子だった。
三好の弟かな。めっちゃ見られている。
「お兄さんだあれ?」
「えっと、三好……七海さんのお友達かな?」
「これ?」
そう言って、男の子は親指を立てる。
「違う違う。ただのお友達だから」
誰だ小学生にそんなことを教えたやつは。
「なんだつまんない」
ランドセルを背負った男の子は、三好の隣の部屋へ入って言った。
そういえば、今日は日曜日なのに、なんでランドセル背負ってたんだ?
最近の小学生のやることってわからないな。
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