第32話
風の声を聞きながらいろいろ考えたけど、あの3人を店に残して帰るわけにはいかず、俺は空気のように店内に戻った。
入り口の呼び鈴には細心の注意を払った。
同じヘマはしない。
空気になったのは、単に目立ちたくないってのもあったけど、女子3人に男1人は荷が重い。
舐めるなよ対女子コミュ障の俺を。何も話せないからな。質問がある時だけは、閉じられた方で頼む。
そして俺は、最悪なタイミングで戻ってきたようで。
「何考えているの六花。私がそんなこと思っているわけないじゃん」
荒らげるまではいかないけど、三好の大きな声は店内に響いていた。
俺、外で待っていた方がいいんじゃね。何でこんなことになっているの。
咄嗟にしゃがんで机に隠れたけど、なんか盗み聞きしているようで、心が痛い!
それに、ここ外から丸見えだから、めっちゃ恥ずかしいんだけど。通る人にめっちゃ見られるんだけど。早く話終わってくれないの。床お尻痛いんだけど。あと、直射日光もめっちゃ当たる。スマホ、明るさ最大にしても見えないんだけど。
反射眩しすぎだろ。どうした10月。お前は秋ってお決まりだろ。夏になるなよ。こういう時に困るから。
外も通る人と目が合うから見れない、スマホは眩しい、店内は椅子と机しかない。厨房は死角。俺にできることといえば、天井の模様を数えるくらいだ。
あの天井、至るところで見る模様だけど、確か名前があるんだったな。何だったけ。
俺のいないところで話が進んでくれているみたいでよかった。混じりたくないというか、混じれない。結局こういう話は、同性同士で話した方が、解決するもんだ。でも、そろそろ俺がすごく暇だから、巻でお願いしたい。寝られるものなら寝たいくらい暇だから。
三好妹は山内さんに対しては、ところどころで、文章としては成り立たないような物言いだったのに、姉に対してはしっかりと言えるんだな。そこまで言えるのだったら何で姉妹喧嘩なんてしていたんだ。
盗み聞きをするつもりはないけど、やることがなさすぎて耳から話が勝手に会話が入ってくる。反対の耳からすぐに抜け出しているけど。
「お姉ちゃんは、頭も良くて、料理も上手で、運動は苦手だったみたいだけど……」
そこで笑ってあげないで、三好も恥ずかしいだろうから。
「それ以外のことは完璧にこなしていて、お父さんもお母さんも、私をお姉ちゃんと比べるし。お姉ちゃんができているんだから、お前もできるみたいに何度も言われるし。私だって頑張っているのに、お姉ちゃんには全然追いつけないし。差は広がるばかりだし。それなのにお姉ちゃんは努力を続けるから、私が何にもしてないみたいに思えて、お姉ちゃんと話せなくなった」
「全部話してくれてありがとう。六花ごめん。私がそこまで六花を追い込んでいるとは思ってもいなかった」
「あんた周り見えてなさすぎなのよ。六花ちゃんだっていつまでもあんたの妹じゃないんだから。六花ちゃんとして見てあげて」
「そうだね。陽菜ちゃんの言う通りだ」
「勝手に下の名前で呼ばないで」
「こんなに話した仲なのに、それはひどくない。私たち友達通り越して親友だよ」
「六花ちゃん。お姉ちゃんに憧れるのはいいと思うけど、同じクラスの私ともろくに話したことのない姉なんて参考にしたらダメだよ。お友達はちゃんと作りなさいよ」
「私に友達がいなかったみたいな言い方しないで」
「実際にいなかったでしょ」
2人で三好妹を置いていってどうするよ。なんでもいいから会話に混ぜてあげて。それよりも、まだなの。もう本当にお尻が限界なんだけど。
「陽菜ちゃん酷いよ。私たちはずっと友達だって言っていたのに」
「言ったことないよわよ。そんなこと。第一、話しかけても無視していたのは三好さんの方でしょ」
「陽菜ちゃん。この場に三好は3人いるから、私のことも下の名前で呼んで♪」
「無理きもい」
「そんなストレートに言わなくてもいいじゃん。なんでそんな言い方するかな。友達できないよ」
「言ってて辛くないの?」
「うるさい黙れ! どうせ私はぼっちですよだ」
「何拗ねているの。名前なんてどうでもいいから、姉妹仲直りってことでいいの?」
3人も人がいるのに、なぜか沈黙に包まれる店内。
え? 仲直りできていないの? この空気で? 何しているんだ三好。
「六花ちゃん。姉の手を取りなさい。それで仲直りってことでいい?」
机と椅子越しでもわかる。山内さんの圧がすごい。
「は、はい。もちろんです」
山内さんに恐れすぎて、変になってないか。三好妹。従順になりすぎるのもダメだぞ。
「六花。友達は選ぼうな」
「お姉ちゃん。陽菜さんは友達じゃないよ」
なんだと。あんなに話していた仲なのに。
「陽菜さんは先輩だよ」
山内さん。三好妹に何をした。どうしたらそんなに従順になってくれるのだ。
間違えないで欲しいが、従順な女子中学生が欲しいってことではないからな。単に、素直に言っていることを聞いてくれる年下の子を所望しているだけだから。
「そうよ。私は六花ちゃんの先輩よ。姉が可愛がってくれないから、私が代わりに可愛がってあげるね」
「ありがとうございます」
いや。三好妹絶対変だろ。山内さんに懐きすぎ。本当に何をしたんだ。
「六花……お前はお姉ちゃんの妹だろ……なんでこんなぽっと出の女とつるんでいるんだ?」
言い方悪いな三好。仲直りができたのは山内さんのおかげなんだぞ。もっと感謝しろよ……俺何もしてないな。
「お姉ちゃん。仲直りをさせてくれたのは、陽菜さんだよ。そんなに悪く言わないでよね」
ここまでいけばもはや洗脳だと思った俺であった。
「六花。お姉ちゃんが悪かったから、純粋な頃の六花に戻って」
「六花ちゃんは今でも純粋でしょ」
「でも私、お姉ちゃん殺してしまったよ……」
3人で仲良く話をするのはいいけど、3人とも何か忘れてないか。俺という存在を。こんなことになるのなら、戻ってこなければよかった。ああ、寂しいを通り越して、泣けてくるな。
「そういえば、神山君はいつまでそこにいるの? こっちにくれば?」
やはり山内さんは女神だ。隠れていた僕にまで慈悲をくれるなんて。と言うか、隠れていたことバレていたんだ。それなら先に言ってよね。バレてないと思って隠れていたんだからなんだか恥ずかしいよ。
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