第29話

 平凡な毎日を過ごして約1週間。ようやく山内さんとのデートの日がやってきた。

 俺はできる男だから、山内さんを待たせないように『Shaun』に待ち合わせの20分前にきている。これも、山内さんに「ごめん。待った?」と言ってもらうために。それにお小遣いを前借りして、山内さんに財布を出させないようにする。これぞデート。

 俺の計画①は破綻した。山内さんが先に待っていたのではない。山内さんは、俺より先に三好といつもの席で話をしていた。何でだ。

 今日は店の休日だから、店内には店員さんはいない。いるのは店主1人。何かのお菓子を焼いている。

 俺はいつも通りに店の入り口から入る。いきなり店主に見つかりかけられた言葉は。

 

「神山君。今日はケーキを出してあげるからゆっくりしていってね。ああ、もちろん僕からのお礼の品だからお金はいらないよ」

 

 俺の計画②も破綻した。

 昨日必死に考えた時間を返してくれ。財布もどうしよう。高校生には似合わない1万円札を3つも持ってきてしまったのに。

 俺は、ため息を吐きながら三好たちの席に向かった。2人がいるテーブルの横に立って。

 

「2人とも何しているの?」

 

 と声をかける。どちらも俺の存在に気づいていないのか、真顔で見つめ合っていた。

 やっぱり帰ろうかな。

 三好と合流するのはもっとあとの予定だったのに、なんでもうすでにいるんだ。山内さんに三好妹のことを相談しようと思っていたのに、できないじゃないか。それよりも、何で2人とも無言で睨み合っているんだ。俺、帰ってもいいかな。

 立ったままの俺に、痺れを切らしたのか山内さんは、俺の方を見て言う。

 

「とりあえず座りなさい」

 

 山内さんにそう言われるが、4人席で、2人に対面されたら、どっち側に座ればいいんだ問題が発生するじゃん。座れないじゃん。いっそのこと、椅子を引っ張ってきて2人と直角に座ろうか。それにしても、何で2人とも、窓側に座ってないのかな。この場所から窓際に行こうとしたら、どっちかに一旦退いてもらうか、机の下から潜るしかないじゃんか。俺、どこに座ればいいんだ。

 結局、隣の椅子を持ち出して、2人に対して直角に座った。

 

「それじゃあ、邪魔になるでしょ。隣に来なさい」

 

 山内さんは窓際に寄ってくれて、隣に座るように椅子を叩いた。

 

「……はい」

 

 せっかく取ってきた椅子をもとに戻し、山内さんの隣に恐る恐る座る。

 この席大丈夫だろうか。隣が山内さんだから気づかれないうちにナイフを刺されたりしないだろうか。かといって、三好の隣も座りづらい。正面三好もきつい。

 

「そんなに緊張しなくても、もう何もしないから」

 

 俺の緊張が山内さんには伝わっていたみたいだ。

 

「いや、緊張なんて……」

 

「見ててわかるから。もうノートを悪用したりしないから、三好とは共闘してノートをこの世界から消す方法を今は考えているから。それと、殺そうとしてごめんんさい。神山君を殺しても何もないっていうのに……反省はしているわ。だから、その……前みたいにとは言わないから、友達とまでは言わないから……普通に話してくれると嬉しいかな……」

 

 前髪を指でくるくると弄る山内さん。素直にかわいい。照れているのかな。かわいい。

 三好は、そんな僕らをジト目で見つめてわざとらしく咳払いをする。

 

「あ……っと。俺の方こそよろしく。っていうか、普通に友達でいいよ。海辺かいへんノートを悪用しないのだったら、友達でいいと思うよ……」

 

 ダメだ。山内さんの破壊力が強すぎて、言葉が全く出てこない。ああ、このまま死んでしまうかもしれない。山内さんのかわいさに当てられて。

 

「あ、ありがとう。じゃあ友達で……」

 

 山内さん。顔合わせづらくて外を見ているのだと思うけど、ガラスにうっすらと写っているから、照れている顔を隠せきれてないよ。でも、かわいいからそのままにしておく。

 不意に三好の顔を見てみると、相変わらずにジト目に、眉間に皺を寄せていた。

 俺は、山内さんではなく、三好に殺されるのかもしれない。

 

「私が死んでいる間に仲良くなったの? ふーん、そっか。私はお邪魔だったのか。そうか、今日もデートだったのか。知らなかったなー」

 

「「そんなんじゃない!」」

 

 見事に山内さんとハモる。一言一句違わずに。

 三好の嫌味口調を止めようとしていたけど、火に油を注いだ形になってしまった。

 

「へえー。仲がいいことで」

 

 今まで知らなかったけど、三好って案外性格が悪いな。こんなやつだとは思っていなかったよ。出会った頃のような純粋な三好は……初めからいなかったか。とりあえず、初めから変人だったわ。ノートを人に拾わせるし。でも、悪いやつではなかった。今も昔も。本性を表しているってことは、信用してくれているってことでいいのかな。山内さんも、ふわふわした感じじゃなくて、棘のある人になったし。これも信用からの本性ってことでいいのかな?

 こんな凸凹コンビだけど、目標は同じ。この海辺ノートをこの世界から無くすこと。これからやっていけるのかは、俺にはわからない。けど、この3人だったら大丈夫な気がする。まあ、俺は海辺ノートを持ってないけど。

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