第28話
放課後。俺は雄太に部活を欠席することを頼んで三好が待っているであろう、『Shaun』に来ていた。
今回は正面から堂々と店の扉を開ける。入ってすぐに右側を見る。いつもの席に三好はいなかった。
「何名さまですか?」
「えっと、1人です……」
何で三好がいるかいないか事前に確認しなかったんだ俺。いつもあの場所にいるからって、調子に乗ってましたよ。
店員に1人だからと別の席に案内されそうになったけど、無理を通して三好がいつも座っている席に座った。
何で今日はいないんだ三好。俺、三好にためにわざわざ部活休んだのに。明日の練習が怖い。コーチと監督に何を言われるか。三好、放課後って言っていたよな。部活後の聞き間違えってことはないよな。そもそも、部活後が放課後なのか。
緊張で出された水が進む。もうお代わりをして3杯目だ。氷もそろそろ融けてきた。三好もそろそろきてくれないと。俺の心が折れて、トイレに篭っちゃうぞ。
何かを察した店主が俺の元に来てくれて。俺は注文ではなく、三好を要望した。
店主に呼ばれて厨房の奥から出てくる三好。
いるならもっと早く来てくれよ。なんか絶妙に恥かしかった。
「六花はどこにいるの?」
そんなの俺の方が知りたいよ。店主の方に訊いてくれ。
「神山君また来てくれて嬉しいよ」
ちょうど店主が現れた、訊いてもみてもいいんじゃないかな。
三好は、店主とは顔を合わせずに、外を見ながら、水を1杯飲んだ。その隙に、店主は俺に1枚の紙を渡す。
「何か出そうか?」
「ああ、お構いなく……」
もう出したじゃんか。何この紙。
去り際の店主は早く読めとばかりに目を使い、俺に催促をしていた。
こんな状態で読めるか。店主が堂々と渡してこないってことは、三好の妹関連。三好に見られたら終わりってことだ。どうすればいいんだ。何で手紙。
わざとらしくメニュー表を手に取って、三好の影になるように立てながら、店主からの手紙を読んだ。ただ、差出人は店主ではなく、三好妹からだった。
『神山さん。姉との仲を取り持ってくれるのはいつですか』
やっべ。完全に忘れていた。よく考えてみれば、店主は俺の連絡先を知っているから、こんな紙で渡すよりも、三好に見られるリスクの低い、スマホを使った方がなん倍もいい。
それよりもどうしようか。確かに三好妹の圧に屈して、姉妹仲を取り持つことを約束してしまったが、端から俺にできることではないんだよな。でも、今更無理だとか言えない。
姉妹仲を取り持つ……そんな芸当ができそうな人は俺の中には1人だけ思い浮かんでいたけど、今音信不通だからな。頼れるのは山内さんしかいないのに。お願いだから連絡ちょうだい山内さん。
嫌われるかもしれないけど、今日もメッセージ送ってみよう。もう失うものはないから。
「三好。提案なんだけど、店主を呼んでもらって、妹の居場所を聞き出そう」
と言葉で言いつつ、店主に口裏合わせを頼むためのメッセージを作成していた。
俺の作戦はこうだ。
三好の妹は顔を合わせづらいから、あえていないだけで、そのうち会える。って言ってもらう。
テキトーな作戦だけど、俺も何も知らないもん。三好の妹の居場所なんて。
三好は俺の提案に乗って、店主を呼びに行った。呼ばれた店主は、俺の隣に座り、もう1枚の紙を机の下で差し出した。
そこにはこう書かれていた。
『りっちゃんはうちでいるから』
そんなことだろうとは思っていたよ。それにしても17日以降会わないって、徹底しすぎだろ。お陰で俺はまた殺されかけたのだぞ。
……三好妹の連絡先また訊いておこう。ないといろいろ不便だ。
「それで話って何かな七海?」
「おじさん六花の居場所知っているの?」
店主は黙って俯いた。頭につけていた帽子を取り、三好に頭を下げた。
「すまない七海。りっちゃんはうちでいるから。安心して今はちょっと顔を合わせづらいみたいで、もう少し待っててくれないか?」
お前は知っていたのか。みたいな顔しているな。信じてもらえないだろうけど、俺本当に何も知らなかったからな。
俺にできることは口を挟むことではなくて、頷くことだ。
「そう……とりあえず六花は生きてはいるんだね」
「隠していてすまなかった。りっちゃんに言わないように言われていたんだ。七海もりっちゃんには言わないでよ」
「わかっているよおじさん。六花が戻ってくるまで待っているから」
店主は席を外した。また俺と三好の2人きりになってしまった。
もう話すことないし、話をするのも気まずいし、よしもう帰ろうか。
「話も済んだことだし、俺はそろそろ帰るよ」
「待って神山君」
三好に呼び止められた俺は、立ち上がっていた身体を止めて、もう一度椅子に座った。
「な、何かな?」
これ以上の追及は勘弁してくれ。俺は本当に何も知らないのだから。
追求されるのだと思っていたけど、三好の言葉は違っていた。
「神山君ごめん……私の早とちりだった。六花のこと考えすぎて、頭に血が昇っていたみたい。本当にごめん」
机ごしに三好に頭を下げられた。
「ちょ、ちょっと。頭は上げてよ。それに生きていればそれでいいよ」
「今更だけど、巻き込んでごめん」
本当に。よくぞこんな厄介なことに巻き込んでくれた。海辺ノートに俺を巻き込んだ罪は重いけど、暇な毎日の刺激にはなったからいいかな。殺されかけたけど。
「もう終わったことだし、いいよ。それよりも、俺はもう帰るよ」
「うん。また明日」
逃げるように帰ったのには理由がある。窓の外に三好妹の姿が見えたからだ。話をされる前に逃げ切らなければ。
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