第26話
家に帰った俺は三好に会わなかったことを後悔した。なぜなら、
なぜ返さなかった俺。こんな厄介なノートとっとと返せばよかった。三好いたのに。
名残惜しくはないけど、何気に海辺ノートを開いて今までのことを振り返る。
海辺ノートに出会ってから大変だった。死にかけたり殺されかけたり、殺されかけたり……いい思い出が全くない。唯一の救いは山内さんの連絡先を手に入れたことくらいか。その山内さんも結局敵だったし……。
この1ヶ月半、いろんなことが起き過ぎて、1年でも経った気分だ。長かった。まだ戦いは終わったわけではないけど。この戦いはどうなるのだろうか。三好が生き返ったことによって、ノートの回収に奔走するだろう。俺もそれに付き合あわされるか。また忙しい日々が始まるな。
1枚1枚めくってノートの最後のページ。三好は何も書いていなかったはずが、『10月12日、山内陽菜は体育館裏で死ぬ』と書かれていた。
誰だこんなことを書いたのは。三好の字とは違うし、俺の字に似ているけど、ところどころ違うな。
俺は迷わずそのページを破り捨てた。
山内さんの安否を確認するため、久しぶりにメッセージを送る。あの騒動以来だ。
『今度の休日話がしたい』
積もる思いもあったように思えたが、いざ、スマホキーボードを前にすると、何も浮かばなかった。とりあえず何かは送ろうと考えたけど、「元気にしてた」とか「おかえり」とか、流石にデリカシーがないなって俺でも思ったから、その辺の言葉は避けて考えついたのがこれだった。反応あればいいけど。
山内さんから返信が来るのは、次の日の昼のことだった。家で昼ごはんを食べていると、スマホが鳴った。
『私も話したいことがある。三好さんの店に集合しましょう』
10月25日日曜日。山内さんとのデートの日程が決まった。
人生2回目のデート。次こそは成功させないと。
山内さんとのデートまであと6日。海辺ノートを触る前と何も変わらなない、いつも通りな日常がまた始まっていた。
朝練が終わって、靴箱で靴を履き替えているとまた靴箱に手紙が入っていたが、これはスルーしよう。どうせイタズラだ。とは思いつつ、ちゃっかりポケットには入れる。
1時間目の休み時間にでもトイレに行ってまた開封しよう。サッカー部の人間に見つかったら、面倒なことになりそうだから。
授業は相変わらず暇で、眠たくて、海辺ノートのせいでいろいろあったのが余計に祟っている。それでも、もうノートの抗争に巻き込まれるのはごめんだ。何も知らずに過ごす方が何倍もいい。もう二度と経験したくない。
……俺今ノートを2冊も持っているけど。
返そうかとは何度も思ったよ。でも、どっちも連絡取れないんだもん。山内さんはインフルエンザで休んでいて、日曜日の予定を決めて以降、一切連絡取れないし。三好はそもそも音信不通で、学校にもきていないらしく、連絡の取りようがないから。『Shaun』の店主曰く、店にも顔を出さなくなったようだし、直接家に行くのはな……妹のこともあるから行けないし。
海辺ノート。ゴミに捨てるのが早いんじゃないか。確か、三好の話でも捨てても戻ってくるって言っていたよな。というか2冊目のノートに書いていたよな。捨てるのが……でもなあ、もし捨てて、所有者の元に帰らなくて、次の所有者の手に渡ってしまったら、今まで三好がしてきたことが、意味をなくすし。
何もせず持っているのがいいか。
1時間目の休み時間。俺は、腹も痛くないけど、トイレの大きい方へ入る。誰にも見られずに手紙を開けるためだ。
『今日の昼休み地学室に来て。三好七海』
淡白な文章だ。三好らしいって言えば、そうなのかもしれない。でも、何で地学室に呼び出すかな。放課後のお店でもいいのに。
それよりもいつの間に学校に来ていたんだ。2組の人間の話では、来ていないと言っていたのに。
昼休みになって、俺は雄太の誘いを断り久しぶりに地学室に来ていた。何でだろうか。3回目なのに初めての時より緊張する。
深呼吸を3回して、いや、もう3回しておこう。
心を落ち着かせてから。ため息を吐いて、扉を3回ノックした。
「失礼します」
もうこの癖は治らないだろう。
「待ってたよ神山君。久しぶり。とりあえずご飯でも食べようか」
三好は窓際のいつもの席。俺は、なんか近づいたらやばそうなきがしていたから、1つ空けて隣の席。
三好は相変わらず、窓から外を眺めながら昼飯を摂っていた。また中庭にいるカップルに呪いをかけているのだろうな。
俺も少しは手伝おう。
昼食を終えて、三好が何かを言い出すのかと思えば、三好は静かに弁当箱を片付けて、鞄の中身をゴソゴソと弄っていた。
あまり見るのは失礼だろうから、俺も用事が終わったらすぐに帰れるように準備をしておこう。
そう考えていた矢先だった。
「神山君にはさ。たくさん訊きたいことがあるのだけど、今は、妹のことだけを教えてもらおうか」
今まで見たこともない鋭い目つきで俺に言った。
「妹がどうかしたの?」
「とぼけないで! 私がいるってことは、誰かが六花のノートを破ったってことでしょ! 私そこまで神山君に頼んでないよ。どうして六花に手をかけたの?」
三好は今まで見たこともないくらい激昂していた。俺を睨みながら。
「ちょ、ちょっと落ち着こうよ」
「落ち着いているよ! 落ち着いていなかったら、こんなことしないよ」
三好は持っていた鞄から刃渡り10センチほどのナイフを取り出して、それを俺に向ける。
「本当に落ち着こう。俺は三好には隠し事はしないから」
「だったら六花をどうしたのか教えて」
「どうって……ノートを無くすために三好を生き返らせるって提案に乗ってくれただけだよ」
「そんなわけないでしょ。神山君が殺したことはわかっているから、正直に言って。どうやって六花を殺したの」
三好は目から涙をこぼしていた。それも体を震わせながら。
三好だって、本当はこんなことしたくないんだろう。ノートを使って非情をしていた人間も、中身は周りと変わらない至って普通の人間ってわけか。でも、前と違って三好特有の落ち着きを失っている。それに、俺が妹を殺した。おかしな言葉だ。だって、俺はノートを預かってから使ったのは1度だけだ。それも、会長に会うためだけに。このことを知っているのはノートを持っている俺だけか。
「待って、三好。今ちょうどノートを持っているんだ。見てよ。三好の妹を殺すようにはしていないだろ」
これでようやく1冊が返せる。
「お前、山内陽菜のノートも持っているだろ」
なぜバレている。この情報はどこにも出していないはずだ。
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