第24話
三好妹に案内されて、俺は高校になって初めて女子の部屋に入った。相手は年下なのに、心臓がバクバクして、緊張が取れなかった。
何なら、サッカーの試合より緊張した。
三好妹の部屋は俺が知っている限りの一般的な女子の部屋で、昔から使っていそうな学習机、全体的に明るめの配色、整理された物品、可愛らしいぬいぐるみ、部屋の真ん中に置かれたローテーブルはピンク色だった。
見て直感的に思ったことは、俺の部屋も片付けてほしいだった。もちろん恋愛感情はない。
「お茶入れてくるので少し待っててください」
「お構いなく。というかさっき飲んだばかりだから大丈夫だよ」
「お客様にはお茶を出さないとお母さんに怒られるので、もう一杯飲んでください」
「そう言うことなら、いただこうかな」
三好家は案外厳しいんだな。いや、神山家がズボラなだけな気がする。特にあの巨獣が。
俺は女子の部屋に1人にされた。
勝手に部屋を見渡したり、座ったりするのは失礼だし、窓のカーテン開いていればな。勝手に開けていいものか。変人の扱いされないだろうな。
暇すぎた俺は、許可も取らずに三好妹の部屋のカーテンを開けて、外を眺めていた。
のどかな田園風景が広がっている。窓の外も暇な風景だ。赤とんぼでも見えたらいいのに。
何気に外を見つめていて思った。
前回、三好妹と会った時、三好妹は『Shaun』に向かう俺と山内さんを窓から睨んでいた。この窓からじゃ『Shaun』は見えない。店舗とは反対側の部屋だ。
いや。落ち着け俺。睨まれていたあの部屋が、三好妹の部屋とは限らないじゃないか。あれは、誰か家族の部屋か、倉庫みたいな部屋で誰でも出入りできて、その部屋からのぞいていたんだ。
使っている割には窓の埃は少ない。
いやいや。毎日掃除しているんだろう。几帳面そうだったし。この部屋だって、ミニマリストくらい物が少ない……。
そういえば、鞄はどこに置いているのだろうか。三好の話では、家族関係が悪いそうで、そうなれば、必然的に部屋で宿題をしているはず。部屋に鞄を置いているのは当然だろう。何故ない。宿題類は? 参考書は?
辺りを見渡してもどこにも置いていない。
制服も部屋の見える位置に置かないか。何故どこにもない。
物色はしたくなかったけど、仕方がない。学習机の引き出しくらいなら、触ってもギリギリセーフにしてくれ。
学習机の1番上の引き出しを開ける。そこには、数学2の教科書が入っていた。
「やっぱり気づかれましたか。さすがお姉ちゃんがノートを託した相手ですね」
最悪の場面を見られてしまった。
何でだ。扉の音なんか聞こえなかったじゃないか。そっと入ってくるの禁止だ。
「いや、物色するつもりはなかったんだよ。ちょっと気になることがあっただけだから」
三好妹よ。結構な時間をかけておいてお茶なしかよ。まあ、飲まなくてよくなったことは良かったけど。
「気になることって何ですか? ここが私の部屋じゃないことですか?」
さすが三好の妹。図星だ。頭の良さは三好に似ているな。
「ああ、それと。ここって、もしかして、三好姉の部屋なのか?」
「そうですけど、時間稼ぎのつもりですか?」
流石にバレるか。三好よ、よくもこんな厄介なことに俺を巻き込んでくれたな。
はあーー。
もうため息しか出ないよ。
三好妹のやろうとしていることはわかる。山内さんと同じこと。なら、山内さんと同じことが起きるに違いない。できれば三好妹は殺されたくない。もしノートが手に入っても、三好が妹に会えなければ意味がないから。
でも、俺を殺そうとしているよね。これ回避できないよね。話し合いができる雰囲気じゃないよね。一応提案はしてみるけど。
「とりあえず一旦落ち着いて。少し話でもしない?」
「時間が勿体ないので、フルネーム教えてもらってもいいですか?」
うん。殺す気だ。
さて、どうしようか。ここまで明確な殺意は2回目だからなんか慣れたけど、前回も話なんて通用しなかったもんな。
「待ってよ。時間はあるのだから、とりあえず俺の話を聞いてよ」
「悪いですけど、あなたの話に興味はありません。さっさと消え去ってください」
「いいの。この部屋で俺が死んでも」
「大丈夫ですよ。その辺は姉の時に試したので」
この姉妹強者すぎだろ。何で2人揃って、ノートの所有者になってしまったんだ。もっと他の人に配ってくれよ。俺みたいな善良な市民に。
「俺を殺す前にいいことを教えてあげるよ。少し話さない?」
「先に名前です。話す内容が有益かは後で判断します」
くそ。折れないか。山内さんの時と似たような感じになってしまったな。
「名前を言うのはいいけど、俺の名前を書いたら後悔するよ」
「見ず知らずの人の名前を書いたところで後悔なんてしませんよ。勝手に死んでてください」
本当に山内さんと同じ結末を辿っている。これはどうすることもできないか。あと、見ず知らずの人かもしれないけど、話すの2回目だよ。意外と心にくるものがあるから、そんな言い方しないで。
「名前を言う前に最後に1つ。俺は、君と同じことをした人物を知っている。彼女は俺じゃない人間に殺された。ノートの所有者でもない。ノートを作った本人に殺された」
「そんな嘘信じるわけないじゃないですか」
「嘘じゃないんだって」
俺がそんな高度な嘘をつけるわけないだろ。
これが伝わるのは、白水高校だけか。
「三好のノートは俺が預かっている」
「それは知っています。それよりも名前を」
「三好のノートが2枚あることも?」
「2枚? どう言うことですか?」
よしかかった。2枚あると言って、反応しない奴はいないだろ。時間稼ぎをして、意味があるのかわからないが。
「1枚目は思っている通りのノート。2枚目は、三好が今までノートを使った実験を記してある。そして俺は、今そのノートを持っていない。家に置いてある。今、俺を殺せば、家の居場所を知らない君は俺の家にたどり着くことができない。有益なノートを手に入れることができなくなるってことだよ」
三好妹の動きが止まった。このまま考え直してくれるといいんだけど。
「明日必ずノートを渡してください。何時でも構わないので。お店で待ってます」
まあ、そうなるよな。俺でも同じことを考えたよ。でも、問題はここから。俺はまだ名前を言っていない。このまま解放してくれたら、俺は死なずに済む。三好妹も殺されずに済む。
「わかった。明日持ってくる。時間は15時くらいになると思う」
三好妹が塞いでいる扉に向かって歩いていると。
「待ってください」
三好妹に呼び止められる。
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