第22話

 三好も山内さんもいなくなって、またしても平凡な毎日を過ごしていた。7時間くらい寝た俺は、冷静な判断をすることができるようになってしまった。

 燃え尽き症候群。

 充実感に満ちて物事に没頭していた人が、燃え尽きたように突然無気力になる症状のこと。まさしく俺がそれに似た状態だった。

 三好の問題を解決したいとは思う。でも、家族の問題に首を突っ込んでいいのかとも思う。三好の考えている通り、妹が犯人だったら、気分次第でノートを破ってくれるのではないか。この考えは甘いだろうか。

 三好が殺されてから1ヶ月は超えている。その間に何の行動を起こさないということは、今後も起こすつもりはないだろう。そうとも取れる。初めから三好を殺すつもりで、生き返らせるつもりもないのなら、協力は絶対にしてくれないよな。

 そんな中に俺が入っていけば、俺が殺される原因にもなりかねない。危ない道は通らないに限るからな。



 昼休み。

 俺は美化委員の活動のため、図書室に来ていた。全学年の美化委員が集まり、再来週にある学校周辺の美化運動について、話し合いが行われた。俺は特に何もしていない。美化委員もこれくらいしかやることないから楽なんだよな。

 

「それでは予定の資料を渡しますので、呼ばれた人から取りに来てください」

 

 話聞いてなかったけど大丈夫かな。まあ、配られた資料に目を通したらみんな大丈夫でしょ。俺より頭がいい人しかいないから。

 

「東さん」

 

「はーい」

 

 俺の斜め後ろに座っていた女子が呼ばれて高らかに返事をしていた。

 斜め後ろということは1年。そして、俺より後ろということは、彼女は6組。

 確か、三好がノートの所有者だと書いていた人も、名前が東で1年6組で……東なんて名前そう多くないから、双子でもない限り、ノートの所有者ということだ。

 

「それでは今日は解散します」

 

 美化委員の活動が終わって、図書室を出た廊下で、俺は東さんに声をかけた。

 

「あ、あの、東さんちょっといいかな?」

 

 初対面の後輩女子。お兄さん的立場で話しかければいいかなって思っていたけど、不審者的にしか話しかけられないのは何でだろう。もう帰りたい。

 

「誰?」

 

 可愛く首を傾げる東さん。あざとい。でも、そんな視線向けないで。胃が痛くなるから。

 

「えっと、2年5組の神山って言うんだけど、少し話がしたくて、今いいかな?」

 

「おお、先輩でしたか。これは失礼しました」

 

 言いながら頭を下げる東さん。

 丁寧だ。さすが6組の人間。というか、名札を見ればわかると思うんだけど。俺緑だから。

 

「それで、初めましての先輩が私に何の用ですか?」

 

 廊下で東さんの友人がいるところでは話せない話だ。

 

「ちょっと場所変えて、できれば2人きりで話がしたいかな」

 

 顔を赤らめる東さん。

 もしかして何か勘違いをしているか。

 

「……なるほど。わかりました。少し外に出ましょうか」

 

 突然目を合わせなくなった東さん。そんな彼女の様子を見て、連れていた友人と俺に聞こえないように小声で何かを話していた。

 何を言っているのか気になるが、ここは乙女の秘密だから男子は禁制だ。

 

「人が少ない場所ならどこでもいいから靴箱とかでも大丈夫だよ」

 

「……時間もないのでそこでしましょうか」

 

 何でか少し納得の言っていなような声だったけど、本当に何と勘違いをしているのか。

 靴箱についた俺は、辺りに人がいないことを確認して、懐から海辺ノートを取り出した。

 初めは顔を赤くして驚いていた東さんも、ノートを見るなり凍ったように固くなっていた。

 

「俺が訊きたいのはこのノートについてなんだけど」

 

 俺が喋ったことにより、ようやく解凍されたのか、2歩ほど下がって、重たい口を開く。

 

「な、なんでそれを……」

 

 俺が持っていることに驚いているのか、ノートを見せたことに驚いているのか。どっちだ。

 

「これは友達の預かりものだけど、似たようなものを、東さんも持っているよね」

 

 東さんは無言で頷いた。俯きながら。

 

「そのノートは今どこにあるの?」

 

「ノートは家に置いています。前に三好先輩にノートを奪われかけてから、持ち歩かないようにしています。いつ、三好先輩が現れるのかわからなかったので」

 

 ……うん。三好やばいやつだな。みんなの話を聞く限り、会長よりも怖い悪魔にしか思えない。

 

「あの、私からも質問いいですか?」

 

「う、うん」

 

「先輩が持っているそのノートは三好先輩のものですよね。どうして先輩が持っているのですか? ノートは誰かに渡したりできませんよね」

 

 さすが6組の生徒。鋭いことを訊いてくるな。

 

「そこまでは俺も知らない。俺バカだから。でも三好は頭がいいから、どうにかして、俺が触れるようにしたんだと思う。で、これは本当に預かりもの。持っててって言われて、そのあとすぐに三好が死んで、返せずにいるんだ。俺だって、何でこのノートを持てているのか知りたいよ」

 

 ごめん。俺本当に何も知らないんだ。

 

「……そうなんですね。さすが三好先輩です。ちなみに私のノートは三好先輩によって無力化されているので、持っていても仕方がないものですよ」

 

 無力化! そんなことどうやってできると言うんだ。三好の2枚目のノートにも、そんなことどこにも書いていなかったぞ。

 

「三好に何されたの?」

 

「すみません。それは私にもわからないのです。三好先輩にノートを触られてからノートが使えなくなったのです」

 

 三好が触ってからノートが使えなくなった? そんなことがあり得るのか。だって、ノートは所有者が触ると電気が走るんだから。

 

「気になるのでしたら、私のノートをお譲りしますよ。持ってても仕方がないので」

 

「ありがとう。それは助かる」

 

 でも、待てよ。俺は山内さんのノートの触った時に、クソ痛い電気を感じたから、今は所有者になっているってことだよな。ってことは、東さんのノートを預かるときに電気が来る可能性があるってことだよな。預かるの無理じゃね。

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