第20話

 遅めの夕食を摂り、風呂に入れば23時になるのは早かった。明日も朝が早いけど、寝る前にやることがある。三好を殺した犯人が、山内さんじゃなかったってことは、山内さん以外の海辺かいへんノート所有者。

 三好の調べによると、うちの学校に全員で9人いたらしい。そのうちの三好と山内さんが死んでしまったから、学校内の海辺ノートの所有者は7人。1日で全員と会うのは難しいか。まあ、時間はあるからゆっくりと1人ずつ話を聞いていこう。

 下手な鉄砲だけど、何となく怪しそうなやつから話を聞こうか。渡部とかいう男。怪しそうだな。教室も隣だし。もう1人くらいには最低でも話を聞きたいな。次に近いのが4組だから泉か。

 

 

 次の日。休み時間は話をするのに時間が短いからと思い、昼休みに弁当をソッコーで食べて、6組の教室の前に来ていた。

 6組は学年でも1番優秀な奴らの集まりだから嫌いなんだよな。できれば話を聞きたくないけど、三好の真相に近づくためには仕方ないことだ。

 ため息を吐きながら扉をノックして、1番近くにいた女子に渡部を呼んでもらった。

 

「何の用?」

 

 あからさまに機嫌が悪そうだ。悪かったな5組の人間が来て。

 

「聞きたいことがあるのだけど、このノートについて知っていることを話してくれない」

 

 あからさまに顔を青くした渡部は目を逸らしながら言った。

 

「そのノートのことなら、三好に預けたから僕は持っていないよ」

 

 なんか怪しいな。絶対なんか隠しているな。

 

「預けたって?  ノートは他人には渡せないルールでしょ?」

 

 言いたくなさそうにしていた渡部は、ようやく覚悟を決めたのか、俺の目をまっすぐ見て言う。

 

「預けたのじゃなくて、取られたんだ。無理やり」

 

 俺が思っていることとは違ったけど、それはそれで興味というか、話を聞きたい。

 渡部に連れられて、俺は屋上の渡り廊下に来ていた。

 

「三好に脅されたんだ。ノートに名前を書かれて、ノートを渡さないと殺すって。それで、最後の1枚以外を破って、三好に渡している。三好は死んでしまったけど、僕のノートはまだ戻ってきていない。三好が捨てられないようにどこかに置いているんだよ」

 

 渡部が嘘をついている可能性もあるが、三好ならやりかねないところが悩みポイントだ。三好からは他の所有者について1度も聞いたことがないから、まさかノートを奪っているとは考えもしていなかった。もし、そのことについて書いてあるのなら、2個目のノートだろう。まだ最後まで見ていないから、帰ったら早速見てみよう。何かヒントでも書いているかもしれない。三好に限ってこんなことはないとは思うけど、もしかしたら保管している場所のことも書いてあるかもしれない。

 

「保管……」

 

「うん? 他に何か用?」

 

「ああいや。こっちの話」

 

 渡部と別れた俺は、4組の前に来ていた。泉に会うために。

 泉とは数回話をしたことがあるだけで、面識はほとんどないと言える。しかも相手は女子だ。渡部とは違った緊張がある。

 4組には同じサッカー部の人間がいるから、呼び出すのは簡単だった。ただ、俺だってこともあり、泉はすごく嫌がっていた。まあ、山内さんのことでいろいろあったからな。山内さんは学校に来ていないし、俺のせいだと思っている人も多くいるみたいだ。

 

「何の用?」

 

「聞きたいことがあるんだけど……流石に教室の前じゃ言えない話だから、場所を変えたいんだけど……」

 

 嫌なのは知っている。でも、そんなあからさまに嫌な顔しないで、泣いちゃうから。

 

「踊り場は?」

 

「そこでいいよ……」

 

 もうここ以外だったらどこでもいいよ。

 泉の後を追うように階段の踊り場で俺は泉にノートを見せた。

 

「このノート持っているよね」

 

 泉も渡部同様に、ノートのことを言うと決して目を合わせようとはしなかった。そしてつぶやくように言う。

 

「持ってはいたけど、今は死んだ三好さんが持っているんだ……」

 

 渡部もそうだったが、まさか泉もそうなのか。

 

「泉も三好に奪われたの?」

 

「なんでそのこと……」

 

 やはり三好に奪われていたか。

 

「さっき6組の渡部にも話を聞いてきたから」

 

「え? どう言うこと? 渡部君も持っていたってこと?」

 

 俺は無言で頷いた。

 

「私と三好さんだけじゃなかったんだ」

 

 泉も三好にノートを奪われていた。様子を見るに嘘だとは到底思えないけど、女子は怖いからな。一応確認をしておこう。もし、本当にノートを奪われたのだったら、渡部と同じことを言うだろうから。

 

「三好に奪われたこと詳しく聞かせてもらってもいい」

 

 泉は頷き、口を開く。

 

「三好さんにノートを渡さないと殺すって言われて、最後の1枚を残して仕方なく渡した。それ以降三好さんと会ってない」

 

 証言は渡部と一緒か。泉も嘘は吐いていなさそうだな。

 泉と別れた俺は、スマホの時計を見て時間があったから、階を1つ降りて、3組の大久保、1組の勝占と月下に話を聞いた。

 結果は、3人とも渡部や泉と同じ、三好に最後の1枚にされて奪われたと話した。

 この学校でノートを所持しているのはあと2人。後輩と先生。東とかいう後輩は全く知らないし、丹治先生は5組に授業を来ていないから、会うタイミングがない。

 俺に接点がないのに、三好に接点がある奴なんているのだろうか。

 この2人は消してしまっていいかもしれないと思ったが、そうすれば三好を殺した犯人がいなくなる。この学校の人間じゃなければ、特定することはほぼ無理だろう。

 どうしよう振り出しに戻ってしまった。とりあえずは、今日家に帰って、三好の2枚目ノートを確認してからにしようか。みんな三好の話を出したら怯えていたし、一体何をしたんだ三好は。山内さんもすごい人だったけど、三好も三好で恐ろしい人物だ。

 改めて関わる女子に対しての運がないことを実感した。こんなことになるのなら、独身でもいいと思った。

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