第15話

 山内さんに心を砕かれたせいで、失うものを無くした俺は、果敢にも山内さんに会うために、2組を昼休みの度に訪れていた。が、山内さんの壁は厚かった。

 周りに女子集まりすぎだろ。人気者なのは知っているけど、あれじゃあ、男子は誰も近づけない。

 2組の男子も山内さんに話しかけようと考えている奴が何人かいたが、流石に話しかけられずに、ただ山内さんを囲った壁を見つめていた。

 俺も同じだけど。

 前回は山内さんの方から話しかけてくれたから、なんの問題もなく山内さんと話ができていたけど、普通は話ができるだけで恵まれているんだな。山内さんと話ができる運を、今年分使ってしまったか。

 俺にできることは、山内さんが何もしないか見張ることだけ。それと今日は諦めて帰ること。

 

 

 今日は土曜日だから、部活終わりの山内さんに会える可能性はある。だけど、だいたい俺の部活のほうが遅いから、会えない可能性もある。

 俺はサッカーコート。山内さんは隣の運動場。見た限りでは山内さんの姿はない。俺はそんなに嫌われてしまったか。まあ、もうズタボロに砕けた心だから痛みはないけど。

 

 サッカー部は日曜日にも練習があるが、陸上部は稀にしかない。明日からは、再来週のテストのために部活が休みだ。山内さんに会う確率は一気に下がるということだ。どうにかして山内さんと話がしたいけど、どこで見かけても女子の壁があるから、話どころか表情を見るのすらままならない。どうにかしてあの壁取っ払ってくれないかな。

 

 俺はテスト休みの1週間。昼休みの度に山内さんのいる2組に行っては、前の廊下で待って。それを続けたが、山内さんは現れることはなかった。

 山内さんも俺の存在には気づいているだろうな。それでも無視をするということは、会いたくないってことだな。それでも俺は失うものがないから毎日会いにきてやるぜ。

 来週からはテストだからお昼までだ。テスト時の放課は先生の話によって終わる時間が違う。うちの担任の西山先生が早めに終わらせてくれたら、会いに行ける。

 と考えていたけど。結果から言って、西山先生は話が長いのだった。2年生のクラスの中で後ろから2番目。対して、山内さんの2組は1番早くホームルームを終えていた。

 山内さんに会えない……。

 心は痛んだりはしないけど、そろそろ話をしないといけない気がしてたまらなかった。

 そもそも、山内さんがノートの所有者だったとして、俺に会いたがらない理由ってなんだろうか。別にやましいことをしていなかったら、会ったって何も問題はないはず。正直なところ、歴史改変をされたのは痛手だったけど、歴史改変くらいで、他のノート所有者と会いたくなくなるものだろうか。実害が、あるにはあるけど、そんなことレベルだ。だとしたらやはり……考えたくはなかったけど、三好の死に関して何らかの形で関わっているってことだろうか。まさか、三好妹と裏で繋がっているとか……それはないか。2人で三好家に行った時の、あの三好妹の反応。あれは演技でできるものではないと思う。もしできるのであれば、俺は今後、女というものを一切信じれなくなると思う。それに山内さんがノートを拾ったのも、わざわざしなくてよかったことだ。俺に、私はノートの所有者です。と言っているものだから。うん。山内さんは犯人ではない。俺だけでも山内さんを信じよう……疑っているのは俺だけか。

 

 テスト期間の約1週間は山内さんに全く会うことができず。その後も一切会うことはなく、山内さんと最後に会ってから、17日が経過してた。話したいことはたくさんあるのに、話せないもどかしさ。心は痛まないけど、モヤモヤは溜まっていっていた。明日こそは。と考えていても、山内さん次第だから俺には何もできない。

 そんなことを考えていた月曜日。朝練終わりに靴箱を開けると、中に1枚の手紙が入っていた。ピンク色で、封をしているシールはハート型。

 これはもしかしなくても伝説の“アレ”かもしれない。

 雄太やその他のサッカー部員に見られてしまい、揶揄われたから、その場で開けるのを躊躇って休み時間も開けられない。結局トイレで便器に座りながら、手紙を開封したのだった。

 

『神山君に話したい事があります。放課後、少しでいいので時間をください。体育館裏で待ってます。山内陽菜』

 

 これはそういうことなのか⁉︎ 山内さんが俺を⁉︎ 最近話してくれなかったのは、照れていたからなのか⁉︎ なんて可愛いんだ山内さん……というわけにはいかないよな。この手紙絶対にこの間の俺が送ったメッセージについてだよな。

 第一、体育館裏ってのが怪しい。あそこは人がほとんど通らないから……そういえば前にも呼び出されたのは体育館裏だっけ? なら、怪しくないのか。違うそうじゃない。手紙が怪しいんだ。なんで俺のメッセージには何の反応もしていないのに、急に手紙なんだ。手紙じゃないといけない理由なんてないだろ。こんなラブレターみたいな形にしたのも変だし。そう思っちゃうじゃないか。

 と疑いながらも、俺の期待値は高まっていた。こんなシチュエーションで期待しない男子はいないだろう。

 違う種類の緊張を胸に、俺は山内さんが待っていると信じている体育館裏に足を運んだのだった。

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