第13話

 昨日は祝日で、たまたま学校が休みだったからゆっくり休めたけど、三好の死が確定して初めての学校は空気が重かった。特にサッカー部からは、三好関連で俺が山内さんと話をしていたことを話していたから、めっちゃ気を使われているのだけはよくわかった。

 コーチからもしばらく休んでも何も言わないとだけ言われた。

 一方で、ある噂もクラスどころか学年中に蔓延していた。それは、昨日のことだ。

 俺が山内さとカフェでお茶をしているところを目撃した人物がいたみたいで、運悪く写真まで撮られて、一日中同級生から白い目で見られていた。

 俺はどこの有名人だよ。お前ら週刊誌か。

 乗り換えはや。元カノ死んだのに、もう新しい人。ありえなくない。逆に山内さんが可哀想。絶対お遊びじゃん。

 お前ら俺が聞いていないと思って行っているんだろうけど、めっちゃ聞こえているからな。あと、俺メンタルそんなに強くないからな。泣いちゃうぞ。不登校になるぞ。

 そんなこともあって、サッカー部ではさらに優しくされた。

 

「まあ、この間はあんなことがあったけど、俺らはみんな勇人の味方だからな!」

 

 その優しさが何よりも辛い。

 コーチからも。

 

「まあ、そのなんだ……穴を埋めることも大切だけど、人間関係は大事にしろよ」

 

 はいとしか言えなかったけど、情報回るの早すぎない。何で外部のコーチまで知っているの。それと、みんな勘違いしすぎ。俺と山内さんの関係はそんなんじゃないって。言っても誰も信用してくれないよな。

 

「勇人。久しぶりに一緒に帰らないか?」

 

 雄太に誘われて、俺は雄太と一緒に帰ることにしたが、校門を出たそのところに、一人の女子が待っていた。

 

「あっ」

 

「あ、神山君。ちょっとお話がしたいのだけど、いいかな?」

 

 俺は正直、これ以上山内さんとの噂になるのは、山内さんに迷惑がかかるから避けたいところだけど。誘われたのなら断るわけにはいかないよな。

 結局、理性が感情に勝てるのは稀なのだ。

 

「羨ましいけど行けよ」

 

 雄太も背中を押してくれている。叩かれたのは痛かったけど。行くしかない。

 

「わかった。人気ひとけのないところがいいよね」

 

 山内さんは初めからこの場所にくるつもりだったのか。体育館裏なんて久しぶりに来たよ。

 

「それで話って何かな?」

 

 面と向かって話をするのはやっぱり緊張するな。陽が沈んで薄暗いのが唯一の救いだ。顔を見られずに済む。

 

「その……ほら今変な噂広がっているじゃん。そのことなんだけど……」

 

 山内さんの耳にも入っているか。まあ、学年中で噂されれば当然だよな。俺もあることないこと言われまくっているよ。主に誹謗中傷だけど。

 

「ご、ごめん。私が軽はずみなことをしたせいで」

 

 山内さんは頭を下げていた。

 

「え……?」

 

「私が神山君をカフェに誘わなければこんなことにはなっていなかったから」

 

 そ、そうきたか。どうしよう。

 こんなシチュエーション考えていなかったから、かけるべき言葉に悩む。

 

「と、とりあえず頭を上げてよ。噂になったのは山内さんの責任だけではないし」

 

 早く頭を上げてくれ。こんなところ誰かに見られたら、こんどこそ俺の人生が終わる。

 辺りを見渡して、誰もいないことを確認してから、もう一度言う。

 

「頭を上げてよ山内さん。その……俺の方こそごめん。山内さんを巻き込むつもりなんてなかったんだ。こんなことになるとは思ってもいなかったから」

 

 山内さんのように深々と頭を下げ、山内さんが先に頭を上げるのを待った。下げてしまってから気がついたけど、側から見ればなんて異様な光景だろうか。

 山内さんはようやく顔を上げた。

 

「そんな。神山君は何も悪くないよ。誘ったのは私だから、迷惑をかけているのは私だよ」

 

 山内さんは俺の手を握った。と同時に強い静電気が俺の手に訪れた。

 

「痛っ!」

 

「大丈夫?」

 

 山内さんに無駄に心配をかけてしまった。

 

「ああ、うん」

 

 俺も反論をしたいけど、ここで反論すればこの話終わらなくなりそうだ。山内さんも意外と頑固なんだな。

 

「俺もこの間、山内さんに悪いことを言ったんだ。だから、これでおあいこってことでもいいかな?」

 

「そうだね。あの時の神山君は酷かったもんね」

 

 反省はしています。もう二度と起きないようには願っていました。似たようなことが起きてしまったことには何も言いませんが。

 

「私も今回は本当に迷惑かけたと思っているから、学校ではできるだけ話しかけないようにするよ。校門で待ったりももうしないよ。その代わり、メッセージのやり取りくらいは続けようよ。せっかく友達になれたのだから」

 

 初めはなんてことを言うんだと思っていたけど、メッセージのやり取りはしていいと許可を得た。山内さんと毎日トークできるとか、俺もう死んでしまうのじゃないか。

 

「うん。そうしよう」

 

「それじゃあ。私は帰るね」

 

「あ、送って行くよ」

 

 もう家も知っているし、帰り道にも迷いはしないから。

 

「だめ!」

 

 山内さんに強めに拒否された。俺はもう立ち直れないかもしれない。

 

「さっき。できるだけ学校では話さないようにするって言ったでしょ。早速噂になりそうなことをしよとしないで」

 

「はい。ごめんなさい」

 

「わかったなら。私が学校を出てから少し時間を置いて出てきてね」

 

 山内さんは自転車に乗って帰って行った。心配だった俺は山内さんがちゃんと帰れているのか見送ろうとしたが、下手したら人生が終わってしまうから、追いかけることをやめて潔く帰った。

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