第11話

 9月22日火曜日。この日も、山内さんからメッセージが届いていた。

 三好はやっぱりまだ学校にはきていないらしい。『Shaun』の店主によると家にも帰ってきていないらしい。聞いた話によることだから、本当か嘘かは店主でもわからないらしい。

 昨日、三好妹とはいろいろあったから、三好の家に顔を出すのはもう不可能だろ。

 三好の捜索は一気に難しくなる。俺らが見つけることは無理だと思う。行きそうな場所や、普段の交友関係などなど、三好について何も知らないから。店主の話によると警察には届出を出しているそうだから、後のことは警察に任せよう。俺らが何かしたって、どうにもならない。

 放課後。素直に部活に行くと、久しぶりに本練習。ここ最近サボってはいないけど、運動する量は減ったから、ついて行くのに精一杯だった。

 今日からまた遅くまで走ろう。とりあえず体力を戻さないと、メンバーからも外されかねなない。

 部活が終わって着替えていると、5人くらいしか入れないような狭い部専用の倉庫に、同じ2年生の部員が道具も何も持たずにゾロゾロと入ってきて、まだ暑さが残っているというのに扉を閉めた。

 俺を合わせた合計で8人の人間がいて、人口密度は推奨されているよりもはるかに多く、倉庫の中が蒸し風呂のような状態になるのには、そう時間がかからなかった。

 

「な、何?」

 

 そのうちの2人に背後と両手を取られ、俺は囚われの身になった。

 

「雄太。どういうこと?」

 

 俺を囲っている中に雄太もいたから、雄太に訊くが、雄太は何も言わなかった。代わりに、2年生の中でも俺に並んでメンバー入りを果たしている末広光輝すえひろこうきが、俺の胸ぐらを掴んで顔を近づける。

 

「お前、昨日山内さんと居たって本当か!」

 

「は……」

 

「昨日は部活サボって山内さんとデートをしていたんだろ! うらや、じゃない。正直に答えろよ、勇人。山内さんとデートをしていたんだろ!」

 

 めっちゃ勘違いをされているけど、実際、俺も昨日は似たようなことを思っていたから、安易に否定はできない。だって、俺の中では、あれはデートだもん。でも、否定するしかないんだよな。この怒り狂っているサッカー部員をなだめるには、嘘をつくしかない。

 

「ち、違うって。そんなわけないだろ。考えてみろよ。俺が山内さんの隣に並んで釣り合っていると思うか」

 

 自分で言っておきながら心が痛い。心に矢が刺さっていた。

 

「確かに……釣り合わなすぎて見ているこっちが恥ずかしいわ」

 

 追い打ちやめて。泣きたくなるから。

 

「だ、だろ……」

 

 光輝は俺と同じでバカだ。騙すのなんてちょろい。

 と思っていた俺だったが、ある人物の一言で、俺の作戦は崩壊したのだった。

 

「勇人。俺はお前を親友だと思っていた」

 

 そう切り出したのは雄太だった。

 

「お前は嘘をついている。昨日は山内さんとデートだったんだろ。親友として悲しいよ。そんな嘘をつかれるなんて」

 

「え、ちょ、雄太?」

 

「俺は見てしまったのだ。勇人が山内さんとカフェに入って行くとこを。そして写真を撮った。見ろこれを!」

 

 何やってくれているんだ雄太。そんな逃げきれないような証拠を出さないでくれよ。

 

「勇人。嘘をつくとはいい度胸だな!」

 

「ち、違うって。ちょっとわかったから、本当のこと話すから、だから、ちょっとだけ時間を」

 

 殴られることを覚悟したが、目を瞑っても拳は頬には当たらなかった。代わりに、両肩にずっしりと重い腕が絡まっていた。

 

「ちょ、ちょっと待って! ほ、本当に本当のこと話から、待って!」

 

 光輝は相変わらず俺の胸ぐらを持って。

 

「馴れ初めを聞かせろ!」

 

 と叫んだ。

 え? どういうこと? 

 俺の頭の中にははてなマークがぐるぐると回っていた。

 

「だから、どうやって山内さんと仲良くなったのか聞かせろ!」

 

 なぜ俺は光輝よりもバカなんだろう。ふと頭に疑問がよぎった。

 

「待って待って。山内さんのこと話すから、一旦この部屋から出ない?」

 

 俺は拘束をされたまま、部室に放り込まれた。

 逮捕でもされたのだろうか。まるで、部室が取調室のようだった。

 

「では聞かせてもらおうか、山内さんとの馴れ初めについて」

 

 この誤解だけはどうしても解けなかった。

 

「だからそうじゃなくって。この話には三好が出てくるんだ」

 

「三好? そんなやつうちの学校にいたっけ?」

 

「ほら、最近不登校の2組の」

 

 さすがアシスト名人。雅也まさやには頭があがらない。

 

「ああ、そういえばそんなやついたような。それで勇人。三好がどうしたって?」

 

「俺三好から預かり物があるんだ。本人にそれを返したいから、2組に行ったら三好はいなくて、山内さんが声をかけてくれて、三好が学校に来ているか教えてもらっていただけだから」

 

 真実を話したというのに、俺への疑いは晴れるどころか、深まっているばかりだった。

 

「三好がらみで仲良くなったのはわかった。どうやって山内さんをデートに誘ったんだ?」

 

「デートに誘ったのじゃなくて……預かり物を家に届けようと思って、家を教えてもらっただけ」

 

「それがなんでカフェに繋がる」

 

 何でこうも余計なことばかりは頭に残っているんだ。雄太。言いたいことがあったなら、直接言ってくれればいいのに。

 

「その店の店主が三好のおじさんだって、少し話を聞いていただけだって。このことを疑っているのなら、山内さんにも聞いてみるといいよ」

 

 サッカー部の中で俺以外に山内さんの連絡先を知っている唯一の存在。山内さんと唯一同じクラスの武田直樹たけだなおきが山内さんに連絡をとった。電話は出てくれなかったので、メッセージを送ったら、ものの2分くらいで返信が来た。

 

『三好さんの家に一緒に行っただけだよ』

『私はデートのつもりではなかったよ』

 

 その画面を俺に見せる必要はあったか。本気で泣いちゃうぞ。

 

「……そうだったんだな勇人」

 

 肩ポンポンするのも下手な慰めもやめろ。虚しいだけだから。

 やっと解放された。俺は全速力で自転車を漕いで家に帰った。

 

「ただいま……」

 

 と言ってため息をつく俺。そんな俺を無視して、親はテレビに張り付いていた。

 そんな真剣に見るニュースなんてあるのかと思っていたが、どうやらテレビに張り付いてしまうのは俺も同じだった。

 

『先週、午前6時50分ごろ。河川敷を散歩している男性から、「死体のようなものがある」と警察に通報があり、警察が事件と自殺の両面で捜査をしていました。DNA鑑定の結果、登久島市に住む、高校生の三好七海さんだと判明しました。警察は引き続き事件と自殺の両面で捜査を続ける模様です』

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