第10話
放課後。
俺は気を遣って山内さんには校門前で待ってもらっていた。
心の底では、本当は、2組に迎えに行きたかったけど、不用意な噂は山内さんに迷惑をかけるだけだと思い、そうした。もし、山内さんとの噂なんて流れても、否定はしたくないものだ。逆に嬉しい。
「ごめん。ホームルーム長引いて……」
こんな言い訳を言うつもりなかったのに、恋愛下手なこと山内さんにバレたかな。
「ううん。私も来たばかりだから大丈夫だよ」
「ああ、そうなんだ……」
何だこのカップルのようなやり取り。めっちゃ嬉しいし、興奮が抑えられない。もしかして俺、山内さんと付き合っているのか⁉︎
※付き合っていない。
「それじゃあ行こっか」
山内さんはスマホの地図アプリを駆使しながら、三好の家へと向かった。俺は山内さんが調べたのだったらいいかと、後ろをついていくだけだった。
「ここみたいだね」
山内さんが立ち止まった場所は、三好に会うために何度も訪れていた『Shaun』の前だった。
「え……こ、ここ?」
「地図アプリって住所打っても正確じゃないから、この辺ってことかな。探せば見つかるよ」
突然ローラー作戦が始まった。
そんな俺らの姿を見かねてか、『Shaun』の店主がフライパンを持ちながら現れた。
「そこで何をしている?」
図体はでかいが、走れば逃げ切れそうな体格。
俺の頭には逃げるの一言しかなかったが、どうやら山内さんは違ったみたいだ。
「あの。私たち、三好七海さんと同じ学校の人間でして、最近学校に来ていないので、心配になって先生に無理を言って住所を教えていただいたのです。来てみると、店主のお店が住所になっていまして、三好さんの家を知りませんか?」
「なんだ、七海の友達だったか。七海の家はそこだよ」
店主が指差した先は、店の真裏にある二階建ての一軒家だった。
「ありがとうございます。早速伺ってみます」
店主は店に帰り、俺は山内さんと三好の家の前で立ち尽くしていた。
何があったかというと、呼び鈴を押すのを任され掛けたから、任せようと言い合いに近い話し合いをしていると、中学生くらいの子が俺たちを白い目で見ていたのだ。
どことなく三好に似ている顔立ち。
「もしかして、七海ちゃんの妹さん?」
さすが山内さんだ。全く知らない中学生に話しかけるなんて。俺にはできない技だ。
「そうですけど。うちに何か用ですか?」
「お姉さん最近学校に来ていないのだけど、お家にはいるのかな?」
山内さんの話を聞いて、三好妹は目を皿にして驚いていた。
「……知らない」
俺らを振り切って家の中に入ろうとする三好妹を、物理的に道を塞いで山内さんはまた訊いた。
「本当にお姉さんのこと何も知らない?」
「知らない!」
三好妹は、持っていた鞄を山内さんに投げつけて、隙を見て家の中に入っていった。
ガチャと聞こえる扉。鍵まで閉めるとは、相当拒絶されているな。
鞄を投げられた山内さんはというと、持ち前の反射神経でするりと鞄を
「痛っ!」
ノートを拾おうとしていた山内さんが、手を押さえながら立ち上がった。
「大丈夫? 怪我でもした?」
「ううん。何でもないよ。ちょっと指を擦ってしまっただけ。何もないから大丈夫だよ」
ノートを拾おうとして指を擦るなんてことはあるのか。まあ、何にせよ、山内さんに怪我がなくて良かった。
ノートは店主が拾い上げて、山内さんが持っていた鞄も店主が預かった。
「少しだけうちの店で話でもしようか」
店主がそう言って、俺たちは『Shaun』の正面を目指して歩いた。
ふと、後ろを振り返ると、三好妹が2階の、窓から睨むように俺たちを見ていた。俺と目があった瞬間に、勢いよくカーテンを閉めて、またしても拒絶した。
これはもう二度と話し合いができる雰囲気ではないな。
店主に案内されて、俺たちは三好がいつも座っていた席に案内された。テーブルには、三好がおすすめと言っていた紅茶が3杯入っていた。
店主はそれを一口飲んで自己紹介を行った。
「改めまして、私は三好七海の叔父に当たる、三好十三です」
流れに乗って山内さんも自己紹介を行い、俺も続いて自己紹介をする。
「実は、七海はここ1週間家にも帰ってなくて、警察にも届出を出してはいるけど、まだ見つかってなくて。学校の友達なら何か知っているのではと思ったけど、学校も無断で休んでいるんだね。いったいどこに行ったのやら」
なるほど三好は行方不明になっているのか。どうりで連絡がつかないわけだ。
「最後に姿を目撃したのはいつですか?」
「土曜日は、
なんか新事実を公表されたけど。三好家はそんな複雑な家庭環境だったのか。今知りたい事実ではない。
「そういえば。三太の姿もここ最近見ていない気がするな」
さっきから話に出てくるけど、サンタって誰だ。山内さんはわかっているかのように話を聞いているが、サンタが誰なのか気になりすぎて話が入ってこない。
紅茶は店主が話を聞いてくれる代わりにとお代をなしにしてくれた。『Shaun』を出て、俺たちは、普段は通らない入り組んだ住宅街の細い道を通っていた。理由はごく簡単。俺が、病院に行くと言って部活を休んだからだ。表だった人通りの多い道は見つかる危険性が高く、山内さんは偽装工作に付き合ってくれている。
「じゃあ、私はこっちだから」
人通りの少ない小さな橋を渡って山内さんはそう言った。
「お、送るよ」
咄嗟にそう言ったが、今は後悔している。何で山内さんを困らせるようなことを言うかなって。でも、山内さんと少しでも長くいたい。この気持ちに勝るものはなかった。
「ありがとう。気持ちは嬉しいけど、神山君は病院に行かないとだし、寄り道せずに行った方がいいんじゃない」
「でも、1人じゃ危ないよ」
「大丈夫だよ。この道よく通っているから」
「よく通っているからこそ危ないんじゃないの? あ、ごめん。嫌だったなら気にしないで」
流石に攻め込みすぎた。どうしてこんなことを言ってしまう前に理性が働かないかな。
「わかったよ。今日だけは甘えちゃおうかな」
「え……大丈夫なの?」
「言い出したのは神山君でしょ。最後まで責任持ってね」
ラブコメのような展開に心踊らせない男子など、この世に存在しないと思う。俺の人生こんなに華やいでいいのかとも思う。もしかしてモテ期というやつが到来したのか。
※きていない。
山内さんは大型ショッピングモールの隣にある、高層階のマンションに住んでいて、下で見送って、俺は住む世界が違うなと思いながら、下を向いて帰った。
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