第9話

 月曜日。朝何気に教室に入ると、山内さんからメッセージが届いた。

 

『朝練お疲れ様! 三好さんの連絡先だけど、今日は学校に来ていなから、聞けないかも……ごめんね』

 

 三好の連絡先はつい3日前に手に入れたが、山内さんに言うのをすっかり忘れていた。

『実はこの間』……。初めは正直に話そうと文字を打っていたけど、山内さんが三好の連絡先を手に入れるまで、メッセージのやり取りができるってことを考えたら、このままでもいいのかもしれないと思い始めた。

 だって、山内さんと連絡を取り合っているのは男子ならかなり限られているはずだ。そのうちの1人に入れるなんて、今後一生ないかもしれないから。このままでいいんだ。山内さんごめん。

 

『ありがとう。俺もたまには2組に顔を出すよ。迷惑ばかりはかけられないから』

 

 既読は秒で付いて、返信は10秒くらいできた。

 

『登校したら教えてあげるから、その時は仲介してあげるね』

 

 デフォルメ化されたニワトリのグッドスタンプを添えられたメッセージを見て、にやけずにはいられなかった。

 このままずっと山内さんと連絡を取り合えたらいいな。

 授業前なのに妄想が捗り、チャイムが鳴ってもスマホを握りしめたままにして、教室に入ってきた先生に怒られた。

 一応三好にもメッセージを送ってやるか。授業が終わったら。

 

 月曜日から山内さんは毎日のようにメッセージをくれたが、三好はこの1週間1度も登校をしなかった。俺が送ったメッセージも既読がつかないままだった。『Shaun』に行けば手がかりを掴めるのじゃないかと思って、部活終わりに毎日通ったけど、どれだけ待っても三好は姿を現すことはなかった。

 1人でカフェに入るのは割と勇気がいることもわかった。

 

 三好と連絡がつかなくなって1週間。新たな月曜日を迎えたこの日。俺は2組の担任である山下先生に直談判し、三好の家を聞こうとした。三好がここ最近学校にきていないこと、何かあったのでないか、と熱弁をしたが個人情報だと断られてしまう。

 まあ、これはどうしようもない。だって、俺は5組の全く関係ないやつだから。何なら、山下先生との関わりもほとんどない。俺のこと覚えているのかすら。

 仕方がない。この手はあまり使いたくなかったけど、“あの人”を呼ぶしかない。来てくれるのかはわからないけど。

 職員室を出た俺は、ズボンのポケットからスマホを取り出して、山内さんに電話を掛けた。きっちり3コール以内に出てくれた山内さんに、職員室前に来てほしい、とだけ伝える。5分もしないうちに山内さんは顔を出して、三好の住所を聞き出すことを提案する。

 

「わかった。私に任せて!」

 

 山内さんは快く引き受けてくれた。

 神かもしれない。山内さんは神かもしれない。大事だから2回言った。

 山内さんは1人で職員室に入り、3分くらいで出てきた。

 

「心配だからって言ったら、教えてくれたよ」

 

 山下先生の対応の温度差よ。俺がどれだけ言っても、心一つ動かさなかったのに。

 スマホを操作しながら言う山内さん。俺のスマホがポケットで振動した。

 マナーモードにするのを忘れていた。

 

「住所送ったから」

 

 立ち去ろうとする山内さんを呼び止める。

 

「待って。あの、もし山内さんさえよかったらなんだけど、三好の家に一緒に行ってくれない?」

 

 山内さんは苦笑いを浮かべながら断った。

 

「いや……それはちょっと……」

 

 俺は直感で山内さんは何かを勘違いしていると思い、山内さんに聞き返すと案の定、山内さんは大きな勘違いをしていた。そう、俺と三好が“付き合っている”という勘違いを。

 

「いや、待って、俺と三好は付き合っていないよ。そもそも、話をするようになったのも、ここ最近の話だよ。それまでは名前を知っている程度だった」

 

 山内さんはきょとんとして首を傾げていた。

 

「だ、だって、最近、よく三好さんと一緒にいたから、てっきり付き合っているんだと思って……違ったの?」

 

 俺は無言で頷く、何回も。山内さんはまだ話の全容がわかっていなさそうだった。

 最近よく一緒にいたかな? 学校では三好と共に過ごしている時間なんて地学室の1回だけだったと思うけど。どこかで話でもしたかな。

 

「じゃあ、なんで家に? やましいこと?」

 

「いやいや、違うから。やましいことなんて何もないから」

 

 山内さんの誤解を解くのに5分近くの時間を使ってしまい、返事を聞くことがないまま、予鈴が鳴り、俺たちはそれぞれの教室に戻った。

 午後1番の授業中。ズボンに振動を感じ、机の影に隠してこっそりとスマホを開けてた。 いつマナーモードが解除されていたんだ。このスマホカバーのせいだな。先生にバレなかったから良かったけど、誰だこんな時間にメッセージを送るなんて。

 そこには山内さんからメッセージが入っていた。

 山内さんが授業中にスマホを触って俺にメッセージを送ってきてくれている。山内さんでもそんなことするんだ。こんなリスクを起こしてまでメッセージをくれるなんて、男子じゃ俺が初めてなんじゃね。

 授業中なのに、走って去って叫びたい気持ちになった。

 

『今日の放課後なら部活ないから大丈夫だよ』

 

 しばらく余韻に浸ってしまっていた俺は、既読をつけてから返信するのを忘れて、授業が終わってから返信をした。

 

『わかった』

『俺も今日は病院だから、その前に行こう』

 

『時間大丈夫?』

 

『親の知り合いの病院だから、多少の優遇は利かせてくれるから大丈夫!』

 

 通算2回目となるニワトリのグッドスタンプ。

 山内さんは何を使ってもかわいいや。

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