第7話
教室に戻ると雄太にいきなり訊かれる。
「遅かったな。こんな時間までどこで何していたんだ? まさか女か?」
ある意味では当たっているけど、そうではない。全然そんな雰囲気にならなかった。
「そんなんじゃないから。単に話をしたい人がいたから話をしていただけ」
「女なのか」
「そこそんなに重要」
予鈴から本鈴が鳴るまでの時間は短い。チャイムが強制的に会話を終わらせる。
俺としてめんどくさかったからちょうどいい。雄太も頭はそんなによくないから、授業を受けて終わる頃には忘れているだろ。
午後1発目の授業は世界史だ。
この先生の授業は、話し方が催眠術のようで。しかも、昼食後の眠くなる時間だから、どう頑張っても眠いのだった。ちらほら寝ている人ももう見かける。でも、俺は違う。眠い目を擦ってとか生やさしいものではなくて、無理にでも目を開けながら授業を聞かないと、また赤点になる。ただでさえ数学みたいに計算をしなくていいから、ここで取らないと後がないんだ。だから、この授業は眠れない。どんなに眠くても眠れない。そして先生。前回と同じ内容をしている。そんなに俺を寝かせたいのか。もう勘弁してくれ。補修は数学と英語だけで精一杯だ。
「1204年第4回十字軍はエルサレムを奪還し、ムスリル王朝アイユーブ朝を滅ぼし……」
あれ? 前回はそんなこと言ってなかったことないか。確か、俺の記憶上では、経済的な理由で何とか包囲に舵を切ったとか言ってなかったっけ。
ノートを見返すと、先生が言っている通りのことをノートに書いていた。記憶違い。その可能性が1番高い。でも、ノートのこともある。三好に聞いてみてから判断するのは賢明か。
午後2番目の授業は地学基礎だ。これも覚えるだけだから、真剣に聞かないと、本気で進級が危ぶまれる。
地学にはノートを使っても、変えられる未来はないから安心だな。
50分授業を受けて、僕の知っていることと違うことがいくつもあった。とりあえず日本人の功績多すぎだろ。本気で口に出しそうになった。もうわけがわからない。三好の話では変えられるのは未来だろ。なんで過去が変わっているんだ。
これは非常にまずいぞ。覚えるだけの科目で新たに覚えることが増えるのは。点数が取れなくなってしまう。この2つを落としたら、本気で3年生になれなくなってしまう。三好の言った通りこのノートを放置するのは危険だ。
午後3時間目は体育だった。ついこの間までは外でサッカーをしていたけど、今日は武道館に集められた。
体育の先生が見たこともない武器を手に立っていた。
「今日はこの銃剣を使った剣術について授業をする。2人1組になれよ」
戦時中か。
現状に危険を感じた俺は、授業終わりに三好に連絡を取ろうとスマホを出すが、三好の連絡先は見当たらず、よく考えたら三好とは連絡先を交換していなかった。
放課後、部活が始まるまでの短い時間を使って、三好を探した。
俺は三好のことについてほとんど何も知らない。部活だとか、放課後どうしているのかも。
とりあえず、2年2組の教室を探した。見た限りだと三好はいなかった。
「どうしたの? 誰か探している?」
俺に声をかけてくれたのは、学年1の美人で人気者で、文武両道の
「うん。えっと人を探していて」
落ち着いたように振る舞っていたけど、内心では、やった! 山内さんに会えた! 今日はいい日だ! いつ見ても可愛いな山内さんは、と興奮を抑えられずにいた。
もちろん口には一言も出してない。
「誰を探しているの?」
「三好さんなんだけど……2組で合っているよね」
「うん。2組で合っているけど、三好さんっていつも1人でいて、放課後もホームルームが終わったらすぐに帰っちゃうんだよね。だから、もう学校にはいないと思うよ」
三好の生態については、学年の謎らしい。もしかして、地学室でお昼を食べていることを知っているのも俺1人なのか。
「山内さんは連絡先とか知らないの?」
「ごめんね。私も学年全員と知り合いってわけじゃないから、知らないんだ」
「そっか……」
山内さんが知らないのだったら、このクラスに知っている人はいないだろうな。いや、もしかしたら、学年で知っている人もいないかもしれない。連絡先を手にいれることは難しいか。
「山内さんありがとう。それじゃあ、部活頑張って」
「あ、待って」
諦めて部活に行こうとした俺を山内さんは引き留めた。
「な、何かな?」
俺の中で緊張が走る。山内さんから改まって何かを言われることなんてなかったから。
何なら、話すのも初めましてに近い。
「その、嫌じゃなかったらでいいから、私と連絡先交換しない。ほら、私は同じクラスだから、三好さんが学校に来てくれたらいつでも連絡先は交換できるから。そっちの方が効率がいいでしょ」
スマホを差し出す山内さんに、俺は二つ返事で山内さんと連絡先を交換した。
「ありがとう。交換できたら、その時はまたよろしくお願いします」
「うん。じゃあ、部活頑張ってね」
可愛く微笑み手を振ってくれる山内さんを横目に俺は廊下を小走りで走り去った。
軽く走っただけなのに、激しい動悸に襲われていた。
やったー! ついに山内さんと連絡先を交換したー! 何から何まで今日は本当についているな!
脳内ではこんな様子だったこともあり、部活の練習は全く頭に入ってこなかった。
そんな様子で部活を終えたから、俺は三好という存在を忘れていたのだった。
気づいたのは家まで後半分くらいの距離だった。
嫌だったけど、三好がいるかもしれないからと思い、来た道を引き返して『Shaun』に向かったのだった。
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