第6話

 俺はいつも、昼休みには雄太ゆうたとご飯を食べている。くだらない話やサッカーの話をしながら40分ある時間を潰している。

 この日は初めて雄太以外の人間と食事を摂る。しかも女子。三好の言う限りじゃ友達はいないって言っていたから、2人きりの可能性が高いんだよな。

 女子と2人きりでのご飯なんて初めてだどうしよう。

 昨日も2人きりだったことはこの時には気づいていなかった。

 地学室の扉を前に3回ほど深呼吸をして息を整えた。

 一応ノックはした方がいいよな。

 3回ほど扉をコンと叩いて、扉を開ける。

 

「失礼します」

 

 三好しかいないだろうけど、癖で言ってしまった。

 三好は、窓側の1番前の席に座り、窓から外を眺めていた。俺の存在に気づくと、こちらに振り向いて。

 

「よくこそ地学室へ」

 

 と言って、歓迎をしていた。

 そんな三好の隣の席に座り、俺は弁当箱を広げた。三好はもうほとんど食べ終えていて、ゆっくりと咀嚼そしゃくをしながら、窓から外を眺めたいた。

 

「いつもここで何しているの?」

 

 俺が訊くと、三好は真顔で振り返りながら。

 

「中庭でイチャついているカップルを呪いながらご飯食べているの」

 

 と答える。

 何しをしているんだ。でも気持ちはわからんでもない。学校でイチャつくカップルなんていなくなればいいのに。俺も少しだけ呪いをかけておこう。今後一生イチャつけないように。

 

 昼食を食べ終えた三好は、持ってきていた鞄に包んだ弁当箱を片付けて、また外を眺めていた。

 俺は、食べていたブロッコリーを飲み込んで、三好に言う。

 

「食べ終えたのなら昨日の続きを話してくれないか?」

 

 三好は俺の方を見ずに答える。

 

「神山君が食べ終えないと、質問とかができないでしょ」

 

 早く話を聞きたい俺は、今までにない速度で弁当を口にして、お茶で飲み込んだ。

 

「三好はさ。このノートを使って何がしたいの?」

 

 三好は真剣な顔を浮かべながら答える。

 

「世界平和だよ」

 

 昨日見たノートの文といい本気なのか。あれ適当に書いただけだと思っていた。

 

「もう少しノートについて詳しく話そうか?」

 

 元々そのつもりだったし、俺は無言で頷いた。

 

「未来を変えられることができるこのノートには、いくつかのルールがあるの」

 

 三好は海辺ノートを机の上に置く。

 

「最後のページを見て」

 

 言われた通り最後のページを開けるとそこには、『ルール』と書かれていた。

 

『1、このノートは初めに手にした者を所有者とする』

『2、ノートは他人が見ることはできない』

『3、他の所有者のノートには触れることができない』

『4、所有者が死んだ場合は、次の所有者を指名することができる。但し、指名していなかった場合は、製作委員会の方で決定するものとする』

『5、次の所有者に指名されているものは、所有者が見せる場合においてのみ、閲覧できるものとする』

『6、ノートに書かれる内容は、公序良俗に反しないものとする』

『7、以上6つのルールを守らない者は、強制的に所有権を破棄させる』

『ノート製作委員会 会長 四熊』

 

「このノートに神山君が触れて、文字が見えること自体おかしな話なんだよ」

 

 三好はドヤ顔を決めるが、俺にはさっぱりだ。

 

「ごめん。何がすごいのかいまいちよくわからないです」

 

 三好は深くため息を吐いた。

 

「今までの実験結果だけど、家族の人間にこのノートを触らせても、特に何も起きなかった。私が見せびらかさない限り、このノートは至って普通のノートなんだよ。そして、改変するために書いた文字は、私以外、つまりノートの所有者以外には見ることができない。それなのに、神山君はノートに触れると頭痛を起こした。さらに、ノートを閲覧できるようになった。面白いことが起きているとしか言えないんだよ」

 

 興奮気味の三好を横に、冷静に質問をする。

 

「俺がノートの所有者になっているってことはないの?」

 

「それはない。ノートの所有者だったら、私のノートに触れたら電流が流れるから」

 

 三好は昨日見せてくれたノートを鞄から取り出して俺に差し出した。そのノートには、幾つものQ&Aがあった。何度も何度も実験をしている結果がそこには書いてあった。軽く見ただけだけど、俺が思っていそうなことはもうすでにほとんどが検証済みだった。

 

「ノートは破棄できないの?」

 

「何度も試したけどダメだった。ゴミで捨てたこともあるし、燃やしたこともある、破って捨てたって、海に投げ捨てたって、必ず郵便で戻ってくる。使い切ったことはまだないけど、破棄するのならそれが1番の近道かもしれない」

 

 想像以上に試しているな。

 

「どうしてノートを使い切ろうとは思わなかったの?」

 

 軽い気持ちで訊いたつもりだったが、三好は真剣な顔をして答える。

 

「私の最終目標は海辺ノートを世界から消すこと。それまでは手放すことはできない」

 

「ちょっと待って。三好がノートを破棄したら終わりじゃないの?」

 

「ノートは、私の知っている限りだと12冊ある」

 

 そういうことか。だから、使い切って終わりにはできないのか。全員が廃棄をしないと、ノート自体も見えなくなるから仕方がないのか。

 

「この学校内でも8冊ある」

 

 そっちの方が大問題な気がする。

 

「待って……ちょっと情報が多すぎて頭が追いつけない。ノートはこの学校内だけでも8冊もあるの?」

 

「うん。全数がわからないからそれで全てとは言えないけど、8冊までは特定できた」

 

 待てよ。8冊までは特定できたってことは。

 

「三好のノートも含めて9冊あるってこと?」

 

 三好は無言で頷く。

 未来を自由に変えられるノート。そのノートを手放してくれと言って、素直に手放すやつはどれくらいいるのだろうか。俺の予想ではそんなやつはひとりもいないだろう。つまり、まずはその8人からノートをどうにかして破棄させるように持っていかなくてはならないということか。無理だな。

 

「俺も協力するから、ノートの所有者の名前聞いてもいい?」

 

 三好は首を横に振る。

 

「神山君のこと信じていないわけじゃないんだけど、学校内のことは私がどうにかするから大丈夫」

 

 三好が椅子から立ち上がったと同時に予鈴が鳴って、三好に鍵を任せて俺は地学室を後にする。

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