第5話
いらっしゃいませと店員さんに言われ、空いている席に案内されそうになったが、待ち合わせですと一言伝えて、手を振る
「ここの紅茶おすすめなんだ。君も一杯どう。紅茶だけなら奢ってあげるから」
「そこまで言うのなら……」
断じて「奢る」という言葉に惑わされたわけではない。こういう、高校生らしいことはほとんどしたことはないから、ちょっと憧れていたというか、おしゃれなカフェに行くことが夢だったから、今体験をしているだけだ。
肩にかけていた鞄を足元にある編まれたカゴに入れて、三好の前に座る。
「で。どうだった?」
俺が座って一言目がそれだ。
「まだ完全に信じたわけではないけど、不思議なことは確かに起こった……」
「でしょ」
三好はノートを机に上に広げて、書いている文字を指で差す。ノートにはこう書かれていた。
『9月10日、木曜日。
三好はさらにページを1つ後ろに戻す。
『9月9日、水曜日。19時30分。神山勇人は、忘れ物を取りに教室に戻る。』
「昨日、部活早く終わらなかった?」
三好に言われて思い出した。昨日は確か、コーチが急用ができたとかでいつもより30分くらい早く部活が終わったのだった。そんなことを三好が知っているはずはない。だって三好はサッカー部とは無関係だし、部活の終わる時間を把握すのは無理だ。学校は19時に完全下校になるから、その時点で学校内にいる生徒は有無を言わずに帰らされる。ここで見ていれば把握できるのか。としたら、どれだけこの店に通っているんだ。
「疑わしいのはわかるけど、ここに書けば勝手に都合を付けてくれるんだ」
信じ難い話ではあるけど、もうすでに2回もノートに書かれたことが起きているから信じるに値はするけど、理性が信じれないと言っている。
「はあーー」
「深いため息だね」
「誰のせいだよ。それよりも、三好は俺に何をして欲しいの。何か目的がなければ、そんなことは話さないだろ」
三好はとぼけているのか、なんのことと言いたそうな顔を浮かべていた。
「別に、君にしてほしいことなんてないよ」
俺は紅茶を口にしていたが、三好の言葉に吹き出しそうになって、ゲホゲホとむせ込んだ。
「じゃあ、なんで呼び出したの?」
三好はさっきとは違うノートを取り出す。
「今、実験をしているんだよ。この
ないと言ってた割にあるし、俺は帰っていいだろうか。
友達を使った実験? なんでそれに俺が選ばれたんだ。いかにも怪しいことしかしなさそうだけど、ノートのことと言い、紅茶をご馳走になってしまったこと。
こんなことになるのなら紅茶なんて貰うんじゃなかった。こんなのもう手伝うしかないじゃんか。初めからそのつもりだったのか。三好め策士だな。
「手伝うのはいいけど、こっちだって条件はあるよ。無闇に命に関わることだけはしたくないからね」
「そこんとこは大丈夫だよ。君に手伝って欲しいことは1つしかないし、今ここで終わるから」
三好は無言で海辺ノートを差し出した。
「このノートに触れてみて」
「普通に嫌だけど」
「今度は絶対に大丈夫だから」
そう言われても、前科というか、前回触れた時の頭痛が、今でも鮮明に思い出せるくらい記憶に焼きついているから、俺は自殺行為だと思っている。
これだけは触りたくない。
「前みたいなことは起きないの?」
「絶対に起きないから」
ほぼほぼ今日初めましての人間の言葉を信じられるかと言われると、もちろん信じられるわけはなく。かと言って、協力すると言った手前、否定しすぎるのも良くないと考える。
「本当に何も起きない?」
「さっきから言っているけど何も起きないから。さあ」
俺は三好が差し出したノートを恐る恐る、人差し指でまず触った。それも一瞬。
次に指を2本にして1秒くらい触ろうかと考えていたけど、それを見かねた三好は、俺の顔面をノートで弾くかのように、頬にぶつけてきたのだった。
「男ならさっさと触らんか!」
座っている椅子があまりにも床を滑らないから、のけぞることができずに、もろにノートを触ってしまった。が、特に何もなく。触り心地は至って普通のノートだった。
「何も起きてない……?」
「さっきからそう言っているじゃん。ノートに触れたって普通は何も起きないんだよ」
「え? じゃ、じゃあ、あの時の頭痛は一体……?」
「それが私にもわからないの。だからそれだけは試したかったの」
「で。結果としては?」
「まだわからないかな。ノートに詳しいわけではないし」
三好は何やら難しい話を始めそうだったので、それを聞きたくない俺は何気にノートを開いた。
「『世界が平等になりますように』ってスケール大きいな」
書いていることを鼻で笑ってやろうと三好の方に顔を向けると、三好は目を丸くして固まっていた。
「え……何……どうしたの?」
「……見えるの?」
「え、あ、う、うん。見えるけど……って言うか、ノートに書いてあるんだから当たり前じゃないの?」
三好はガタンと音を立てながら椅子から立ち上がった。同時に机をバンと叩いたから、店内の視線を集めていた。側から見たら別れ話でもしているように見えているのだろうか、視線が痛い。集めたのは一瞬の出来事だったからよかったけど。
「これは面白いことが起きているよ。それも、このノートを拾ってから1番くらい」
「え? ど、どう言うことなの? もうちょっと詳しく話してくれないとわからないよ」
興奮を落ち着かせるためか、三好は深呼吸をしてから言った。
「今日はもう遅いし、詳しい話は明日の昼休みでもしてあげるよ。地学室にきて」
「ああ、うんわかった」
俺は、三好に言われるがままに『Shaun』を後にした。
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