第4話
家に帰ってからは、小学生の時に使っていた爆音の目覚まし時計を、押入れの奥の雑に不用品が入っている箱から取り出した。
久しぶりすぎて埃がすごかった。
この目覚まし時計を見るのは何年ぶりだろうか。うるさすぎて封印した中学生の頃が懐かしい。もう4年にもなるのか。
電池は全て抜いているから新しいのを差し込んで、他にも中学の時に使っていた地味にうざい音を奏でる目覚まし時計。その音にストレスを感じて買い換えた至って普通の目覚まし時計。親のお古の目覚まし時計。それにスマホ。全て合わせて5つの目覚まし時計を用意した。
ここまですれば寝坊は流石にしないだろ。これで寝坊すれば、いよいよ
念の為に親にも起こしてもらえるように言っておこう。その他、同じサッカー部の雄太にもモーニングコールを頼んでおこう。
これで準備は万端だ。
結論から言って、俺は朝練に寝坊した。
でもおかしいんだ。目覚まし時計はどれも鳴っている。それなのに、誰かが止めた痕跡があった。現実的に考えて、俺しかいないけど、寝ぼけて全て止めてしまったのか。有り得なくはない話だ。親も兄弟も家族で一斉に寝坊して、雄太に至ってはメッセージ来てないし。三好の影響だろうか。そんなことはない。今日はたまたまみんなで寝坊してしまっただけだ。
はあーー。
今日何度目のため息だろうか。今日はため息しか吐いてない。
朝練に寝坊して怒られて、ダッシュを何本もやらされて、授業前には課題をしてなくてまた怒られて。おかげで午前中の休み時間は全て潰れた。昼休みは昼休みで生徒指導の先生に呼ばれるし、今日は散々なことばかりだ。あれもこれも三好のノートに触れてからだ。今日もまんまと三好の言った通りになったし、あのノート本当に未来を変えることができるのか。
今日1日の疲労で、元々使えない頭がさらに使えなくなっていた。
「今日は一段とつらそうだな」
話しかけてきたのは雄太だ。
「今日は怒られる1日だったよ」
「顧問からも担任からも怒られるって、なかなかできない経験だと思うぞ」
「世界一いらない経験だよ。っていうかさ、雄太電話くれた?」
「ああ、かけたんだけど、電源が入ってないって言われて、絶対遅刻するって思ったから諦めた」
今日の朝、スマホはいつも通り電源は入っていた。目覚ましが鳴った形跡もあった。電源が入っていないなんて有り得ないが、雄太がそんな嘘をつく方がもっと有り得ない。これも三好の影響なのだろうか。これで三好のことを認めるしかないのか。
「はあーーー」
「ため息が深いな」
「当たり前だ。今日は何もいいことが起きてないんだ」
「それもそうか。そう言えば、顧問が午後練も基礎練と筋トレにしようって言っていたぞ」
「また⁉︎ もう、何回基礎練に参加したら気が済むんだ」
「足は大丈夫なのか?」
「もうほとんど治っているよ」
まだ全力で走ろうとしたら足は痛むけど、いつまで経っても痛いって言っていれば、スタメンからも外されるし、ろくな練習もさせてくれない。多少の痛みなら、耐えて、我慢して乗り切らなければ上にはいけない。
「そうか。早く本練に戻ってこいよ」
「言われなくても」
本練をしている雄太が羨ましい。妬む気持ちはないけど、早くあっちに合流したい。
ここ最近基礎練ばかりしているから体が痛い。もう筋トレで身体を痛める歳になったか。運動量は年々増加しているはずなのに、年々、運動に対する熱量は減っていっている。
これが原因か。でもな。歳をとると、運動をしたいと思えないんだよな。昔はあんなに頑張っていたランニングも、最近の基礎練ばかりで筋肉痛だから動くよりも安静でいたい。
そう言えば、昨日三好は疑っていた俺に対して「ショーンで待っている」って言っていたよな。でも、俺の記憶上。「ショーン」なんて場所を知らない。調べたら出てくるのかな。地図で「ショーン」と調べれば出てくるか。その前にこの辺に詳しそうな雄太に訊いてみよう。
「雄太? この辺で『ショーン』って場所知らない?」
「さあ? 店の名前とかだったら、地図アプリとかで調べた方が早いと思うぞ」
だよな。同じこと思っていた。
「わかった。ありがとう」
地図で調べた結果、「ショーン」は、ここ白水高校から徒歩5分にあるカフェだということがわかった。
僕のが終わったのは20時過ぎ。今から行って三好はいるのだろうか。三好もまさかこんな時間まで部活があるとは思ってないだろうから、一応店には行くけど、いなかったらすぐに帰ろう。
だって、初めてのお店は怖いから。
ガラス張りの店内を、外に止めてある車の陰から覗き込む。
さて、三好はどこにいるのだろうか。見える範囲にいないのだったら俺は帰るぞ。
三好を見つけるのは
だって三好は、外が眺められる席に座って、白水高校の方を見つめていたから。
何やっているんだろうか。
三好は俺に気がついたのか、こちらを見つめて小さく手を振っていた。
恥ずかしかった俺は手を振り返すことはせずに、店の中に入った。
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